Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

【書評】Q思考(Warren Berger著)

現在、アメリカにおいて政治リーダーからビジネスリーダーまでが絶賛している内容。

「いかに”さらに美しい質問”をするか?」という問題提起がされている。

私たちの教育において、常に教師からの一方通行で、「それを覚えていればよい」という風潮があるように思えるが、その弊害としていつしか私たちは質問をし、正しいと教えられていることに疑問を抱かなくなってきている気がする。しかし、私たちも生まれながらにそうではないのだ。言葉を発するようになってから大体4歳ぐらいまでは、あらゆることに疑問を抱き、それを恐れることなく両親に尋ねてきたはずだ。「どうして空は青いのか?」「人は死ぬとどこに行くのか?」といったシンプルだが、非常に本質をついている質問をたくさんする。しかし、それが幼稚園以降、影をひそめてしまうのだ。両親としても、子供からの質問に答えられないことに気付くのだが、それを悟られないために、「もうそんな質問するんじゃない」だとか「おもちゃで遊んでなさい」というように、質問を繰り返し、問題の本質を見極めようとする能力を高めるチャンスを閉じてしまうのだ。私も中学校や高等学校、大学、大学院といろんな学校で講演をさせていただく機会があるが、一つ気がかりなのは「質問がないこと」。もしかしたら私の話している内容が理解不能かつまらないのかもしれないが。。ただ、何度となく質問を促すと、「一体、何をどう質問していいかわからない。どういう質問をすればいいですか?」と尋ねられることが多い。その時には「自分が少しでも疑問に思ったり、理解ができていないと感じることを、なんでも尋ねていいんだよ」と答えるが、ほとんどの場合、非常に戸惑った表情を返される。

私も交渉術やコミュニケーション術のトレーニングを担当する傍ら、この本にも紹介されるアメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)のRight Questions Instituteのプロジェクトにも関わらせていただいているが、私たちがシンプルで尋ねることをためらうような質問から、世界でトレンドを作り上げるような製品や作品が生まれる瞬間を何度も見てきた。また、「私たちは何を目指しているか?どうあるべきか?」といった本質的な内容を、実際に掴む機会を、シンプルな質問を繰り返すことで得られることも体感してきた。自分の周りに怒っていることを”常識”だと考えずに、あえて「どうしてだろう?」と疑ってみるのだ。例えば、歯を磨くといった毎日の習慣では、「どうして私はいつも右から磨くのか?」「どうしてこの歯磨き粉を使っているんだろう」という質問だ。疑問を感じることで、新しいことを試す(ここでは左から磨いてみる)とか、自分の行動や決定の原点を理解することにも役立つ。

ところで、私たちはIT技術、とくに最近活発になってきているAI(人工知能)やビッグデータのおかげで、何か疑問を抱いたら、すぐに答えが得られる毎日を享受している。???と感じたら、Googleサーチすれば大体の”答え”は見つかるだろう。しかし、Googleサーチも、AIも「質問」は作り出せない。これはiPhoneに乗っているSiriも同じだろう。今後、AIの発達は著しいものとなるだろうが、恐らくこの「質問を考え出す」という機能はいつまでも達成できないだろう。

では、このよりよい質問(より美しい質問)をする、という行動を実際にどう生かせるのだろうか?実は、会社経営やプロジェクトの立ち上げ、製品のデザインといった実務においてもSimple questionsは役に立つ。実際に会社の戦略会議やプロジェクトの立ち上げ、新製品を考える際、よくブレーンストーミングを行っていないだろうか。私も交渉チームとともに“解決策”を見つけるべく、ブレーンストーミングをよく開催する。しかし、このブレーンストーミングは、「答え」や「結論」を見つけるために開催されることが多く、参加者それぞれの知識量や関心、グループ内での上下関係などに結果が左右され、当初狙っているような「自由闊達な意見交換の場」「アイデアを出す場」という目的を果たせていないことも多い。また、そこから“新しい可能性”が生まれることも少ないのが実情だ。なぜならば、参加者の知識や知っていることに内容が限られるからだ。これを仮に「Brain Questioning」に変えてみてはどうだろうか。参加者それぞれが、既成概念に縛られることなく、「日頃、わかっているようでわからないこと」や「不思議で仕方ないが、尋ねるのが億劫」だと思っていることをぶつけ合ってみるのだ。「そもそもXXってどうしてこうなのか?」「なぜXXはできないのだろうか?」というように質問をひたすら出し合って、それを皆で解き明かすというものだ。こうしていくと、私も経験があるのだが、思ってもみなかったアイデアにぶつかったり(それでまた質問がいくつも生まれるのだが)、「あ、それなら知っているかも」「それを知っていさそうな人を知っている」「それ、私も不思議に思っていた」という状況にぶつかったりする。実はそんなところに新しいアイデアは隠れているし、解決策への糸口も見つかるのだ。

私は世界各地で起こる紛争の調停を手掛けることが多いが、メディアで伝えられていることや資料にまとめられている内容を、「本当にそうなんだろうか?」と疑い、自分でも調べてみることにしている。また交渉チームとも毎回、Brain questioningを行い、問題の本質を探ろうとしている。そうすると、突然、「あ、もしかして、こういうことなのでは?」とのアイデアが浮かんでくることもあるし、複雑な問題が急に疑問が解けて、解が見えてくることがある。

また、Brain questioningの際に、本にも書かれているが、「どうしたらできるか?(How might we do?)」をキーワードとして、自分やチーム内で尋ねることにしている。「できないことはない」という前提に立ち、さまざまな角度から解決策を探す一助になる。ちなみにHow can we?とかHow should we?というコミットメントやできるか否かという可能性を含む質問ではなく、「どうしたら私たちができたらいいなと思うことをできるようになるか?」という、いわば、解決策は先送りにして、みんなで考え続け、アイデアを出し続けるという内容がHow might we do?である。

本の内容をいかに実際に活かすかは、読まれる皆さんそれぞれちがってくるだろうが、私からは「質問する力」そして「いかにもっと美しい質問ができるか」という点を強調しておきたい。そう、「シンプルな問いで本質をつかむ思考法」だ。

皆さんともいろんな質問や疑問をぶつけ合い、物事の本質を探っていければと思います。

 

 

 

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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