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気候変動交渉とトランプショック

気候変動コミュニティにとって、2016年11月はup-downの激しい月になった。まず、11月4日にパリ合意が発効した。昨年12月12日に合意されたパリ合意がこんなに早く発効の日を迎えるとは誰も考えていなかっただけに、各国とも驚きを隠せなかった。とはいえ、少なくとも2030年までの気候変動への戦いを始める時期が早まったことは、喜びをもって歓迎された。日本は11月4日の発効日までに批准はできなかったが、11月8日国内プロセスを終えて、正式に批准国の仲間入りを果たした(ルール上、公式に締約国になるのは、その1か月後の12月8日)。11月7日から始まった国連気候変動枠組み条約会合(COP22)において、日本もすでに2020年以降の取り組みを決めるべく、積極的に交渉に参加している。

 

しかし、会合3日目の11月9日水曜日の早朝、次期アメリカ大統領にDonald Trump氏が選出されたとのニュースが飛び込むと、各国交渉団になんとも重苦しい空気が流れた。「アメリカの交渉姿勢が一気に後ろ向きになるのではないか」、「米国からの援助が打ち切られ、各先進国もそれに続き、気候変動への戦いが形骸化するのではないか」などいろんな懸念が飛び交った。アメリカ政府代表団も、その日の朝の打ち合わせをことごとくキャンセルもしくは延期するほど、戸惑いを隠せない様子だった。「現時点では、どうなるか何も分からないし、言えない」。一様にそういった対応だった。しかし、「少なくとも来年1月19日まではオバマ政権だし、今回の会合のオバマ政権からのmandateを受けての交渉なので、マラケシュにおいて、アメリカが後ろ向きになることはない」と、まるで自分たちに言い聞かせるかのように、各国からの交渉団に答えていたのは印象深い。実際に11月12日現在、アメリカは非常に積極的に交渉に参加し、パリ合意の内容の実施に向けて尽力している。ただ、来年以降の不確実性を示すかのように、設置されている各専門委員会に新たなメンバーは出さないとの方針を固めたようで、これはまだ見ぬ嵐の予感がする。

 

トランプ氏が大統領になるかもしれない。そのような情報が流れた際、氏が気候変動に懐疑的でパリ合意からの即時撤退を公約に掲げていたため様々なところから懸念が提示された。しかし、「パリ合意からの実質的な脱退には4年かかるから大丈夫」「ゆえにオバマ政権のうちに発効させておいたのは賢明だった」との見解が示されたが、この「4年の猶予」はそこまでパワフルだろうか。実は、トランプ次期大統領が「パリ合意からの脱退」を実現させる方法があることにあまり多くの人たちは気付いていないらしい。もし、米国が、パリ合意の“親条約”である国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退を行えば、ルール上、脱退宣言から1年後に条約からの離脱が行われ、それと同時にパリ合意の批准も無力化してしまうのだ。つまりパリ合意からの離脱も1年後には可能になる。大統領選勝利の一方の後すぐに、トランプ氏とその陣営は、気候変動懐疑派の人物を環境保護庁(EPA)の政権移行チームのトップに据えた。また、次期大統領に確定した後も変わらずに「パリ合意からの脱退」に言及している。

 

これから新政権への移行が着々と進められていくが、気候変動コミュニティとしては、今会合中のアメリカ代表団の“強がり”にも見える姿勢とは別に、実際にどうなっていくのか。最悪のシナリオにどう対処するか。急ぎ戦略を練らないといけないだろう。

 

パリ合意の批准プロセスでは、国際情勢の趨勢を読み間違え、initial rotiferグループに入り損ねた日本だが、アメリカが、確実に今よりも(オバマ政権時よりも)後ろ向きになる気候変動交渉でどう振舞うべきか。すぐに戦略作りが必要だろう。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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