Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

交渉を制する者はビジネスを制する(1)

交渉といえばどのようなイメージを持たれるだろうか?国家間の紛争を調停したり、人質解放に取り組んだり、ご自分の日常からはかけ離れたお話とお思いかもしれない。もしくは、国際的にビジネスで活躍し、大きな案件を手掛けるスーパーネゴシエーターを思い浮かべられるかもしれない。どれも決して間違ってはいないのだが、私は「交渉は高尚なものではなく、日常生活の様々な場面で起こること」と申し上げたい。私自身、国際的な紛争の調停やビジネスの合併吸収という大きな案件も手掛けるチャンスにも恵まれたが、同じ交渉でも、コンサルティング案件を受けてくる際のFee(報酬)や納期については日々交渉しているし、もっと日常的なところでは、「今日の夕食は何にしようか?」「今度の休暇はどこにいこうか?」という「交渉」も行っている。後者のほうはともかく、皆さんもお仕事をされるうえで、様々な形の「交渉」に直面しているのではないだろうか?もしかしたら、意識せずに常に交渉に臨んでいるのかもしれない。 でも、「交渉なんて、とてもとても」と苦手意識を持っておられるかもしれないし、もしかしたら、ご自分のお仕事と交渉は無関係とお考えかもしれない。とくにクリエイティブな業界で働いておられるなら、「結果は実力次第」もしくは「作ったもの勝負」とお考えかもしれない。ただ、その「いいもの」が、必ずしも思っているように認められるとは限らない。額面通り、もしくはそれ以上に、作品が評価されるためには、効果的なコミュニケーションも大事だし、ある種の多方面への交渉も必要となってくるのだ。 言い換えれば、ご自分や自社が作り出したモノやサービス、アイデアを、いかに効果的に売り込めるか。また、いかにクリエイティブな仕事の依頼をクライアントから獲得して来られるか、それらはすべて個々の交渉力にかかっている。このコラムでは、様々な交渉のパターンを経験し、また多くのクライアントに交渉の戦略をアドバイスする立場から、クリエイティブ業界で働かれる皆さんに「クリエイティブな交渉術」をお話ししたいと思う。

今回のお話の前提として、皆さんが置かれている状況について想像してみたいと思う。 皆さんはおそらく20代から30代のクリエイティブ業界でお仕事をされる方々で、会社所属かフリーランスのクリエーター(ご自分もしくは自社の製品やサービスを売り込む必要がある)だと仮定してお話を進めていきたい。お仕事をされるにあたり、恐らく何度も何度も徹夜を繰り返して作品を制作されていることと思うが、ご専門のクリエイティブなお仕事をされている限りは苦にはならないのではないでしょうか?私のいとこもクリエイティブな業界で仕事をしているのですが、制作中はいろいろとあったとしても、実際には徹夜していたとしても楽しくて仕方がないそうです。でも、もしその作品や制作されたものを売り込む作業を始め、その他クライアントからの要求に応えるためのもろもろの事務作業など(特にあまり得意でないこと)に追われて徹夜を余儀なくされるならどうだろうか。あまり楽しくないし、できればしたくないけれど、仕事のためにはしなくてはいけないというのが実際のところかと思う。でも、もしそれが「交渉すべき時に、交渉しなかった」もしくは「交渉に知らず知らずのうちに失敗していた」からだとするとどうだろうか。いくつかありうる状況を仮定して、それぞれの場合、どのように交渉、もしくは話を進めれば、もっと事はうまく運び、やりたくない徹夜をしなくてすむか述べたいと思う。

クライアントから値引きを要求されている。どうしたら良いか?

どのようなビジネスでもよくあるシチュエーションですが、こちら側の規模が小さく(クリエーター個人もしくは事務所)、相手が業界の大手だったりする場合、明らかに力関係では、従わざるを得ない状況に思えるかと思います。この時、よく陥ってしまう罠が「値引き」という一点にのみ集中して交渉に臨むことです。大事なことは、「価格」以外のところで、何かしら交渉できるイシューがないか探すことです。例えば、作品の納期を変えることが出来るか否か、という点も交渉イシューになりえます。価格を下げる代わりに、納期を2週間遅らせるという交渉を持ち掛けることが出来ます。または、「支払いパターン」も交渉できるかと思います。もし、作品の引き渡しと同時に全額キャッシュで支払いをしてもらえるなら、先方の値引き要求に応じる、という交渉も可能です。ここで大事なことは、交渉可能な様々なイシューをひとまとめにして、パッケージ化されたdealを交渉することで、仮に価格は下げても、一方的に泣き寝入りするような結果には至らないようにできるということです。まずは、価格以外にどのような交渉条件があるか、どのような選択肢があるのか、を整理し、「出来うる合意パターン」をいくつか作ることかと思います。

クライアントと対等な立場になるにはなにが必要なのか?

先ほどにも挙げましたが、クライアントとの力関係が対称でないこと多いかと思います。その時、「うちは小さいから」とか「個人だから」といって泣き寝入りするしかないのか、と諦めるのはとてももったいないことです。この際、まずはご自分の(自分の会社の)強みと弱みを明らかにすることから始めてみてください。一旦弱みがちゃんとわかったら、「それを克服できる強みは何か」を、ご自分の強みをベースに考えてみてください。もしかしたら、規模が小さいがゆえに決済・決裁が迅速ということかもしれませんし、クリエイティブなお仕事ですから、デザイン性やオリジナリティーといった、クリエイティブならではの強みもあるでしょうし、「これまで一度も納期の遅れたことがない」とか、「出した作品は常に高評価を受けていて、XXという賞を何度も受けている」といった実績も、交渉においてアピールできる強みとなります。その上で、クライアント側の情報も、強みと弱みという観点から、徹底的に集めて整理してみてください。例えば、人気商品もしくはシリーズの根幹をなすデザインをあなたの会社・デザインに頼り切っているかもしれません。もしそうだとしたら、アイデアを持ち、デザインを描けるあなた(あなたの会社)の交渉ポジションは高くなります。また、もしあなたが作る作品が、クライアントの業務上、ほかでは代替できないとてもユニークなもので、かつ必要不可欠なものであるとしたら、「もしこの交渉が成り立たなかったら、同業他社にデザインや作品を持ち込むことも可能」といった強い立場・プッシュできるイシューができてきます。企業の規模や、クライアントという立場など、様々な立場上の強みを先方は持ちますが、それに対抗し得て、かつこちらサイドの力を高める手段はいくらでもあるかと思います。まずはご自分の強みをまとめてみてください。

さらには、いかにコミュニケーションを図るかということも大事です。私はこれをYES butの法則と呼びますが、相手がクライアントなど、通常強い立場を持ちやすい相手の場合、まずは相手が何を言ってきたとしても「その通りですね」といったようにYESと受け入れてみてください。それが仮に、実際には受け入れられない内容でも。その上で、「しかし、こういったアイデアはどうでしょうか?」とbutを入れてご自分の主張やアイデアを出してみてください。面白い状況を味わっていただけると思います。よく行動心理学でも言われていますが、一度自分の意見をYESと受け入れられると、その後、実際には修正されているにもかかわらず、相手はなかなかNOと言いづらくなるという現象があります。それをうまく使ってみてください。あと応用編として、相手が言っていることを、オウム返しのように言い換えてみてみるのですが、その際に「ご自分の側の主張」を少しずつ混ぜ込んでみてください。ちょっと難しそうなテクニックに思われがちですが、先ほどのYES butの法則と同じく、まずはオウム返しすることで相手の意見をちゃんと聞いていますよ、と肯定し、その後、同じような言葉を用いつつ、こちらサイドの要求やアイデアを入れ込むという感じです。結果、交渉と呼ぶかどうかはお任せしますが、やり取りが一段落するころには、こちらサイドの意見もとおり、気が付けば、もともとあった非対称の力関係も、ほぼイーブンになっていることと思います。

チームメンバーが疲弊…….どうやったら気持ちよく動いてもらえるのか?

日々お仕事をされる中で、どうやってチームメンバーを鼓舞できるか、そして、いかに高いクオリティーでの仕事を継続できるか、といった悩みは尽きないのではないでしょうか。私も日々気を遣わなくてはならないイシューです。特に、紛争調停などの気持ちも重くなるような仕事では、よくチームメンバーも(そして私も)疲弊します。このようなとき、どうすればいいのか。私が考える解決法の一つは、「まずは、一旦、その状況から物理的に離れること」です。疲れた、アイデアが浮かばない、行き詰まり感・・・仕事の能率を下げ、クリエイティビティをそぐ理由はいろいろとありますが、一旦場所を変えてしまうことで、すっと解決することもあります。コーヒーを飲みにいくもよし、晴れている日ならお散歩もよし、停滞した雰囲気から一旦脱出することも大事です。

でももしそのような「脱出」ができないならどうするのか。あなたがマネージャー、チームリーダーなら、定期的にチームメンバーの状態を聞き出すような機会を設けることも必要です。「プロジェクトにおいて、何か行き詰っていることはないか」、「どういったことに取り組みたいか」などできるだけ具体的に話し合うような雰囲気を作ることが大事です。このような時、特に大事なことは、「まずは黙って聞いて、相手に不満分子を吐き出させること」です。話を聞いていていろいろとこちらも言いたいことはありますが、相手に話させることを優先してください。また、話を聞きながら、引っかかる際には、「なぜ?」と尋ねることを忘れずに。あとは、相手の話を言い換えるオウム返しも有効です。「ちゃんとあなたの話を聞いていますよ」というメッセージを無言のうちに送ることが出来ます。大事なことは、チームメンバーが具体的にどのような問題を抱えているのかといった「原因」をまず特定し、その上で、迅速に対応することです。

ほかには、「XXが出来たら、YYができる」といった具体的な目標を提示することも効果的です。例えば、「今、とりかかっているプロジェクトが終わったら、ちょっと休暇をとっていいよ」といったインセンティブ系もいいですし、売り込みなどの営業や条件の交渉などは、チームリーダーがまとめてやる代わりに、チームメンバーはあくまでも得意なクリエイティブな制作に集中するという、「何は任せて、何はしなくていいか」といった仕事上の責任をはっきりさせることも有効です。こうすることで、チーム全体の仕事や責任も整理できますし、「あれもこれもしないとだめ」という目に見えない疲弊感は解消しやすくなります。

トラブル発生で納期に絶対に間に合わない! どうしたら良いか?

どんな仕事でも思いがけないトラブルはつきものです。PCが急に動かなくなった、データーが消えた、担当者がいきなり倒れた・・・トラブルの種類を想像すればキリがありません。ただ、契約上「納期」が存在することも事実です。それに絶対に間に合わない!という状況になった場合、いろいろと納期に仕上げるまでの緊急手段を考えることはもちろんですが(例:他のクリエーターに頼る、PCをすぐに買いに行くなど)、一番大事なことは、できるだけ早いタイミングで、クライアントに素直に状況を説明し、納期の延長を依頼すべきでしょう。ただし、ここで大事なのは、「いつまでに」という明確なタイムラインの提示です。「3日ぐらい」という曖昧なものではなく、「○月○日XX時までに」といった明確なタイムラインです。これまでに一度も納期遅れがないのであれば、恐らく大丈夫です。大事なのは、きちんと謝罪し、トラブルの詳細をできるだけ明確に説明し、クリアなタイムラインを示して、ベストを尽くすことです。

クライアントに対しては、上記のような対応かと思いますが、同じくとても大事なのは、トラブル発生時に、あなた自身が取り乱さないことです。特にチームを抱えているならなおさらです。決して怒鳴り散らしたり、暴れたりするのではなく、あくまで冷静に(たとえ怒りがこみ上げたり、焦ってパニックしそうになっていたとしても)問題を分析し、「何ができるか」「何をすべきか」を整理して、チームメンバーに指示を出しましょう。これは仮に個人で仕事をしていても同じです。問題やトラブルは、どんな仕事でもつきものです。責任転嫁したり、現実逃避したりしても解決しませんから、「いかにして解決するか」「いかに対処するか」、事態を振り返るのではなく、あくまでも前を向いて対応することが必要です。仮に当初の納期に間に合わずとも、対応策が明確に練られていれば、もしかしたら新たに設定された納期よりも早く上げることができるかもしれません。

今回お話しした交渉術やコミュニケーション術が、クリエイティブな世界で活躍される皆さんにとっても、実は縁遠いものではなく、仕事を効率よく行うために、とても役立つスキルであることがお分かりいただければ嬉しく思います。
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by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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