Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

交渉を制する者はビジネスを制する(2)

『チームメンバーとのコミュニケーションのおける”交渉術”』

 

交渉というと、「自分もしくは自分の組織 vs.他人もしくは他の組織」というイメージが強いかと思うが、大事な交渉の場面の多くは「チーム内」に存在する。今回は、あえてチームメンバーとの関係をぎくしゃくさせることなく、目の前の難題にいかに強調して立ち向かうか、ということに焦点を当て、交渉術・コミュニケーション術について述べたいと思う。

皆さんがクリエイティブなお仕事をされ、依頼を受注するし、何とか期限までに仕上げなくてはならないという場面を想像してほしい。例えば、代理店案件や、プロジェクトに関わる人が多いほど、大規模な仕事ができる反面、メンバー同士の関係もピリピリしてくることもあるかと思います。特に、短納期の案件であれば、日に日にチームメンバーが疲弊し、メンバー同士の関係もギクシャクしてくることもあるでしょう。このような時、どうやったら気持ちよく動いてもらえるでしょうか?

日々お仕事をされる中で、どうやってチームメンバーを鼓舞できるか、そして、いかに高いクオリティーでの仕事を継続できるか、といった悩みは尽きないのではないでしょうか。私も日々気を遣わなくてはならないイシューです。特に、紛争調停などの気持ちも重くなるような仕事では、よくチームメンバーも(そして私も)疲弊します。このようなとき、どうすればいいのか。私が考える解決法の一つは、「まずは、一旦、その状況から物理的に離れること」です。疲れた、アイデアが浮かばない、行き詰まり感……仕事の能率を下げ、クリエイティビティを削ぐ理由はいろいろとありますが、一旦場所を変えてしまうことで、すっと解決することもあります。コーヒーを飲みにいくもよし、晴れている日ならお散歩もよし、停滞した雰囲気から一旦脱出することも大事です。

でももしそのような「脱出」ができないならどうするのか。あなたがマネージャー、チームリーダーなら、定期的にチームメンバーの状態を聞き出すような機会を設けることも必要です。「プロジェクトにおいて、何か行き詰っていることはないか」、「どういったことに取り組みたいか」などできるだけ具体的に話し合うような雰囲気を作ることが大事です。このような時、特に大事なことは、「まずは黙って聞いて、相手に不満分子を吐き出させること」です。話を聞いていていろいろとこちらも言いたいことはありますが、相手に話させることを優先してください。また、話を聞きながら、引っかかる際には、「なぜ?」と尋ねることを忘れずに。あとは、相手の話を言い換えるオウム返しも有効です。「ちゃんとあなたの話を聞いていますよ」というメッセージを無言のうちに送ることが出来ます。大事なことは、チームメンバーが具体的にどのような問題を抱えているのかといった「原因」をまず特定し、その上で、迅速に対応することです。

ほかには、「XXが出来たら、YYができる」もしくあ「YYをしていい」といった具体的な目標をチームメンバーに提示することも効果的です。例えば、「今、とりかかっているプロジェクトが終わったら、ちょっと休暇をとっていいよ」といったインセンティブ系もいいですし、売り込みなどの営業や条件の交渉などは、チームリーダーがまとめてやる代わりに、チームメンバーはあくまでも得意なクリエイティブな制作に集中するという、「何は任せて、何はしなくていいか」といった仕事上の責任をはっきりさせることも有効です。こうすることで、チーム全体の仕事や責任も整理できますし、「あれもこれもしないとダメ」という目に見えない疲弊感は解消しやすくなりますし、皆さんのクリエイティビティに沿った専門家としてのお仕事に集中しやすくなります。

さて、一般的な話をすると以上のようになるのですが(とはいえ随分具体的に掘り下げたつもりですが)、当たり前の話ですが、スタッフやチームメンバーもそれぞれユニークなのですから、個別の、それぞれに合った対応が必要となります。やる気を出させる方法には、例えば「ほめる」バージョンと「叱る」バージョンがあり、どちらも使い方によっては効果的ですが、相手のタイプを間違えると逆効果になります。例えば、何かしたチームとして問題があった場合、スタッフのAさんがチームにおいてエース的な能力を持っていて、それを自他共に認めていると仮定した場合、チームを叱るにはどのような対応が可能でしょうか。私(仮にここではチームリーダー)であれば、まずAさんを個別に呼び、いかに自分がAさんを認めていることをはっきりと伝え、その上で、チームミーティングでは、あえて皆の前でAさんを叱ることを伝えておきます。そして、実際にチームミーティングでは、チーム全体を見渡しながら問題を洗い出し、打ち合わせ通りにAさんを少し叱った後、最後にはAさんに問題解決のリーダーを任せるというようにアプローチします。「エースっていっても・・」という際には、Aさん=主担当者としてみるのもいいでしょう。この際、事前のケアとアフターケアーは忘れずに。この場合、Aさんがぐれることはないでしょうし(前もって直にほめているので)、Aさんが皆の前で怒られることで、後々解決策に向かってAを主担当として進みやすくなります。(ただし、ほかの機会に、きちんと皆の前でAさんを称賛するチャンスを作りましょう)

ここまでは、お叱りバージョンで、皆さんにやる気を出してもらうパターンでしたが、 仮に今回の主担当のBさんは、どちらかというと控えめで、調整型の人、もしくは、ご自分の仕事をこつこつとこなされるタイプだとしたらどうでしょうか。この場合も、上記と同じような問題が起きていると仮定してみてください。私であれば、チームミーティングで、まず、皆がいる前で、何かしらのプロジェクトを行う、もしくは制作をする過程で、それぞれが果たしてきた役割や努力を褒め、Bさんの主担当としての功績を皆の前で褒め称えます。その上で、「しかし、現在、XXという問題に直面している。みな、どうすべきだろうか?Bさんはどう思う?」と展開します。大事なことは、まずBさんに振って考えを聞くことです。また、同じプロセスをチームメンバー全員に行うということも大事です。気が付けば、目の前の問題に対しての解決策が様々な方向から出てきて、チームとしてどちらに向かうのかという方向性もはっきりしてきますし、同時にチームとしての連帯感も取り戻せます。

さて、ここまではケースに分けてみてみましたが、大事なことは、褒め称えるバージョンでも、お叱りバージョンでも、「相手のキャラクターをしっかりと見極めたうえで、対応を考える」ということですが、主担当になっている一人ではなく、 チームメンバーひとりひとりときちんと向き合って話をする機会を持つことです。 私は『ブレーンストーミング』をお勧めします。先ほどのBさんを褒めるバージョンで「皆に考えを聞く」ということを述べましたが、ここでは、それに加え、それぞれが考えや意見を持ち寄り、自由に議論を戦わせることのできる環境づくりが特に大事です。クリエーターの皆さんは、それぞれにご自分のスタイルを確立されているでしょうし、作風などもユニークだと思いますので、ブレーンストーミングの場に来られる際にも、わりに強い考えをお持ちのことと思いますが、それはそれとして、ブレーンストーミングの場に臨む際には、「自分の意見=正しい」という考えは捨て、あくまでも全体の意見の一つという位置づけを刻み、できれば場に入る前に一旦、「こうあるべき!」という考えは、部屋の外に置いておくぐらいの姿勢で臨まれることを勧めます。その上で、チームとして意見を戦わせ、そこで出てきた結論が、自分の結論(進むべき方向)だと理解する姿勢が必要になります。もしあなたがプロジェクトリーダーなら、特に自分の考えは一旦心にとどめて、皆の考えをとにかく聞くことに徹することが大事です。ある程度、意見が出尽くしたかなと思う時点で、あなたも意見を述べて、議論に貢献し、その後は、また他の人からの意見を引き出したり、議論の方向性を見出すファシリテーター的な役割を期待したりします。

あとは、「常にチーム内に、腹を割って話せる人物を入れておく」ということです。後者については、これまで述べてきたような対応策を講じる前に、方針について相談できる人で、かつどんな場面でも、自分が迷っているときに、ぽんと背中を押してくれる人です。また、リーダーたる自分と、チームのメンバーとの間をつないでくれる、皆から頼りにされているような人がいれば最高です。ただし、その『人』は、自分とは違ったタイプの人であるほうが結果はうまくいくかと思います。事前に打ち合わせをしていることもありますが、皆の前でも自分の考えや方針に異を唱えてくれる、もしくは、お叱りバージョンの際には、叱られた人に対してのフォローアップをしてくれるようなタイプだと望ましいかと思います。ただし、あくまでもその人とは事前に「役割」について意見調整はしておいてください。でないと、同じグループ内に派閥のようなものが出来てしまい、お互いにあまり望ましくない状況に直面することになります。

いろんな仕事がありますが、人と関わることがなく仕事をこなすことはないといっても過言ではありません。仕事においては、その成否はおそらく9割ほどは「いかに周りの人たちとうまく付き合い、意見を調整するか」にかかわります。そういうクリティカルな場面でこそ、交渉術やコミュニケーション能力が必要とされます。リーダーならばもちろんですが、同じことはチームメンバーにも必要となります。風通しがよく、考えたことは自由にいえるような環境こそが、よりクリエイティブな仕事の質を上げ、さらには作品に命を吹き込むような効果をもたらすのだと思います。またそのようないいチームが作る「もの」の良さは、恐らく、作品を通して、クライアントにも届くのだと思います。交渉術やコミュニケーション能力をぜひ生かしてほしいと思います。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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