Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

交渉を制する者はビジネスを制する(4)

『YESを勝ち取るための交渉術』

 

交渉においても、商談においても、そしてコンペなどの場においても、YESを得ることが、まず目的になります。YESを勝ち取った瞬間の快感は言葉では言い表せないほどです。私は人の間に入って仲裁を行う調停官という仕事柄、あまり表だって喜びを爆発させることはなかなかできませんが、YESを得た瞬間はやはり気持ちがとてもいいものです。ところで、一旦NOだと思われた案件でも、工夫をすれば結果をYESにすることも可能だとご存知でしょうか?拙著『最強交渉人のNOをYESに変える技術』(かんき出版)のタイトルにもありますが、今回はその交渉術の一端を、交渉事例を用いながら、お話しできればと思います。

 

最初は、ビジネスにおいて相手を納得させる方法についてお話しいたします。プレゼンテーションやコンペのシーンをイメージしていただければわかりやすいかと思います。「自分が作っている資料やデザインに自信はあるのだが、いつもなぜだかコンペなどで勝てない」というジレンマを味わうこともあるでしょう。そんなとき「あと一歩、見えないYESへの壁を破る」にはどうしたらいいのでしょうか。一言でいえば、「相手を知ろうとするように、己のことも知り尽くす」です。コンペのお知らせが届いた際、まず資料やデザインに取り掛かる前に、「今回のニーズ」や、主催者や関係者の情報をできるだけ集められるのではないでしょうか。どのような会社なのか、これまでどのような作品や資料にいい評価を下したか、社会的にどのような評判なのか、担当者はだれか、といった情報です。収集した今回のプロジェクトやコンペ情報、相手の情報を分析し、作品やプレゼンの方向性を決めて、制作に取り掛かられると思います。その際に、頭では分かっていて案外忘れがちなのは、自分サイドの情報収集と分析です。「自分のことなんてわかっているよ」と不思議に思われるかもしれませんが、実際に「今回、求められている内容に十分高いqualityで応える能力や体制があるか」といった内容を、他社(者)を分析するのと同じレベルで分析してみると、自分のことだからとわかりきった気になっていた様々な内容が見えてきます。そこで得られた「新しい理解や情報」をベースに、今回の方向性を定める手法を試されると、もう一歩、相手のニーズに合い、かつ自分サイドの能力をそれに合致させてプレゼンできるという一つ上の高みに持っていくことができるようになります。そうして出来上がってきたものを、今度は徹底して分析した相手の趣向に合わせてプレゼンを行います。ここで試していただきたいのは、すでに分析をし、戦略上の仮定もたてられているかと思いますが、あえてその仮定を疑うような質問を投げかけてみることです。相手に直接質問という形で、プレゼン中に語り掛けてもいいですし、あえて相手の一瞬見せる反応を探るために、あえて断定形で、いかにもその仮定情報が「事実」であるかのように扱って、その上で提案を語ってみてください。“あたり”でも“はずれ”でも、プレゼンを受ける側にとっては、こちら側の本気度を感じる心証を与えられます。例えば、今回のコンペの題材について「こちらはXXのように理解し、このように表現しましたが、それで良かったでしょうか?」と、一旦決めつけのように言い出し、「でもそれで良かったか?」と相手にYESかNOの回答をしてもらい、具体的なコメントを引き出すきっかけになります。そこで仮に方向性の前提がずれているような印象を受けたら、その場で、discussion形式で直す方向も取れますし、「なるほど。ということは、XXということですね?では、いついつまでに修正してお持ちします」というように、一気に今後の対策まで言い切ってしまうのも有効な手段となります。私も、紛争の調停や交渉において仲裁のような役目を負う際、必ず何らかの提案をご用意しますが、その際には、もし議論の方向性としてはポジティブな感触で、かついくつかの事例については合意もしくは共通認識が生まれているようなときは、時間をおかず、そのままその場で修正を加え、一気にYESまで持っていく方策を取ります。しかし、仮に、その場の行き詰まり感を感じ取る際には、問題点を簡単に羅列・おさらいし、少し時間を仕切りなおして、後日、合意に持っていくように、小さなYESを取りに行きます。それで、自ら、相手から再度プレゼンする機会を引き出すことが出来ます。

 

ちなみに、これまでコンペなどで惜しくも負けたような際に、そこで諦めて引き下がっていないでしょうか?もしそうだとしたら、とてももったいないことをされています。ここがNOをYESに変える技術です。仮に「負けた」としても、ここで諦めずに「今後のために」という名目で、コンペの主催者を訪ね、「今回は残念でしたが、今後のために教えていただけませんか?どこをどのように改善したら、受け入れられたでしょうか?」と教えを乞うてみてください。相手からすると、「すでに負けを認めている」こともありリスクフリーだと思いますし、また「教えてほしい」と言われて悪い気はしませんので、大体の場合、懇切丁寧にアドバイスしてくれます。そこは熱心に話を聞き、わからないところはその場で具体的かつ端的に質問し、情報をできるだけ引き出します。その上で「ありがとうございます。ご指摘いただいた点については、恐らく改善できると思います。今回のことは仕方ないですが、改善出来たら見ていただけますか?」と投げかけてください。ここでNOとはなかなか言えません。ここで先ほどの小さなYESをまず取り、必死で改善し、あくまでも「アドバイスを乞いに来た」という姿勢は崩さずに、後日、意見を伺いに行ってください。「それでどうなるんだ!」と不思議にお思いになる方も多いかと思いますが、私がこのアドバイスをさせていただいたケースの9割は、改善された内容を持って後日アドバイスを乞いに行く、という作戦で、コンペでの当初の「おしい負け」をYESに変えることに成功しています。ご自分の提案やデザインに自信がおありで、でももう一つ相手に刺さってくれない!とジレンマをお感じなら、ぜひこの方法をお試しください。

 

次は、いかにして「やる気の無いスタッフを動かす方法」について述べたいと思います。以前にもお話ししましたが、交渉マターは、自社の外のみならず、実は内側にも多く存在します(もしかしたら内部のほうが多いくらいです)。たとえば、スタッフの一人が、何を頼んでも、やる気どころか、何事も「できません」で片付けてしまい、一向に仕事が進まない、という経験をされた方も多いかと思います。そんな彼(彼女)を「やります=YES」といわせるためには、どのように対応すれば(交渉すれば)有効でしょうか。まず、考えられるのは、私がよく言うことですが、「できないのはなぜか」という理由を探ることです。ここで大事なことは、能力がない、ゆとり教育の悪影響だ(注:私はこの議論が嫌いです)などとこちらで勝手に理解し、理由を決めつけないことです。あくまでも「どうして?(Why?)」と尋ね、「それは・・・(because)」と、その相手に自分で回答させることがとても大事です。コミットさせてください。調停に臨む際にも、時折直面するケースですが、「それは・・・どうしてもできないんです!」と頑なになる人が結構いますが、その時でも「なぜできないと考えるのか?」と問いかけ、相手に答えてもらうことにしています。最初はむにゃむにゃ言いますが、次第に、それは・・・・とぽつぽつ語りだします。そこから原因を探り、同時に解決策を考えます。「どうすれば、再度やる気にさせるか」と。次に、私が有効だと考えるのは、「できた!」という経験を与えることです。最初は簡単なケースや案件でもいいので、まずは「やらせてみて、問題に当ったら、こちらがして見せて、そして、こちらが手伝ってでも一度できる経験をさせてみる」ことです。私は「aha moment」(あは!の瞬間)と呼んでいますが、できた瞬間に「あー、わかった。こうすればいいのね!」と自分でしてみて、それが出来ると、いきなりの「できません」は次から出てきません。調停の時に私がやるのは、「本当に、それできないかなあ。。。じゃあ、一緒にやってみません?」と一緒に考え、トライしてみます。大体の場合、できちゃうんです!それで「あー、できるものですね・・・」と相手も頑なな態度を崩し、乗ってきます。大事なのは小さな成功体験であって、「最近の若い奴は」的な、無駄な愚痴ではありません。

 

さて、最後に、交渉術の講演などで、国を問わずよく聞かれる質問にお答えしておきたいと思います。それは「交渉術は、人の心・気持ちを動かすことに使えますか」との質問です。これは気になる異性という恋愛のこともあれば、クライアントというケースでも有効です。答えを先にしてしまいますと、「場合による(Yes and No)」なのですが、ここではちょっとしたコツをお話しします。実は、交渉学のコアとも言っていい行動心理学の要素では、座る位置や見る位置(目線)、色の効用など、多くコツがありますが、ここでは2つだけお話ししておきます。一つ目は、「応用編オウム返し」です。私の本を読んでいただいた方はすでにご存じの内容かもしれませんが、人というものは、ほぼ例外なく、自分の話を聞いてもらう・聞いてもらえているという状況が大好きです。ですので、相手に好かれたい(私のことを大事に思ってくれている、と思ってもらう)と願っているなら、まずはひたすら相手の話を聞いてみてください。話題を振って(質問でもいいです)、あとはひたすら相槌を打ちつつ聞きましょう。途中で何か突っ込みたくなっても、相手のセンテンスが終わるまでは聞きます。センテンスが途切れる、もしくは話が一段落したら、その時点でいくつか相手の話の内容を確認する形式で質問をするのです。例えば、交渉でもよく使い、また人間関係を築く際にも有効な質問では、「XXさんが行っている○○って、こういうことですよね?」という質問は有効です。「ああ、ちゃんと話を聞いて、それも関心を持ってくれた」というイメージを作ります。ここまでであれば、オウム返しです。応用編では、この「確認作業」の質問もしくはオウム返しの際に、少しずつ「自分の持っていきたい方向の情報を、あたかも相手がすでに言ったかのように、オウム返し時に混ぜる」という方法です。なかなか自分で言い出した(少なくともそう思っている)内容に、自分でNOとは言いづらいという心理が働きます。その心理的な特徴を使いましょう。これは、私がよく言うYes butの法則にもつながります。まず相手の話を全て「そうですよね」と全面YESで受け取っておき、「でもこんなかんがえもないでしょうか?」とButで返します。これは、本心では「反対」でも、この言い方を用いるだけで、「相手をまず立てて、正しいと認めたうえで、代替案を出している」というイメージを付けることが出来、こちら側から出したbutの後の案もYESを引き出すことが出来るようになります。具体的な状況については、どうぞご自由に想像してみてください。頭の中で映像化できるようになって来れば占めたものです。さて、2つ目は、今回のタイトルから外れているとお思いになるかもしれませんが、質問する際にはYES/NOで回答できる質問は避け、「選ばせる」質問を投げかけます。デートの誘いなら、「今夜XXにいきませんか?」というのではなく、「今夜、AとBならどちらがいいですか?」というものです。これだとすでにYESを前提として質問していますので、ほぼNOの回答はありません。これが仕事、つまり相手がクライアントでも同じです。オプションを提示し、相手に選択してもらう質問をすることで、YESは自動的に得ることが出来ます。なにしろ、オプションは、どちらもご自分がオプション化しているわけですから、どちらを相手が選んでも、YESではないでしょうか。

 

ここまで、交渉術・コミュニケーション術の観点から、さまざまなケースを考えて、特に「クリエイティブなお仕事をされる皆さん」の状況において、どのように対応すれば、事態が好転するか?つまり、よりうまくご自分のクリエイティビティを世界に広め、また納得のいく結果に導くことが出来るかについてお話ししてきたつもりです。私の連載は今回で最後になりますが、皆さんが交渉術を日々のお仕事や生活に活かして、より効率的で、より才能を発揮できる毎日を送られることを祈念しております。私がお役に立てることがございましたら、またお声掛けくださいね。

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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