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私たちはどこへ向かうのか:気候変動交渉の現場から

COP22は何を目指しているのか?

11月7日から始まり、明日18日に閉会を迎えるCOP22/CMP12/CMA1も佳境を迎えてきた。元々の予想では、implementation COP (実施のためのCOP)と位置付けられ、あまりにも話題がないといけないからと、アフリカの気候変動問題にも焦点を上げたAfrica COPという側面も与えられた。しかし、10月4日にパリ合意の発効要件が満たされ、COP22の開催前の11月4日にパリ合意が正式に発効した。それにより、急きょ、CMA1(パリ合意の第1回締約国会合)が開催されることとなり、一気に期待が高まった。日本国内でも「日本の批准遅れで、ルール作りに参加できない」との危惧がクローズアップされたが、こちらでは、UNFCCC事務局長が「締約国と非締約国を今回会合においては区別しない」との方針を明確にしたおかげで、日本も何とか救われた感じだ。発効を受け、お祭りムードで始まった今会議だが、11月9日朝に、COP22の雰囲気は一転した。アメリカ次期大統領にトランプ氏が当選したのである。トランプ氏は選挙中から繰り返しパリ協定からの脱退を示唆していたからだ。米国代表団は急きょ、対応を練るための会議を行うため、朝の協議はことごとくリスケされ、各国もパリ合意の形骸化を早くも懸念する羽目になった。一応、米国代表団から「少なくともこの会議においては、オバマ政権下から指示を受けており、パリ合意へのコミットメントに水を差すことはない」との意向が明示され、交渉そのものをとん挫させるような事態は避けられたが、やはり各議題での交渉スタンスを見てみると、今すぐのコミットメントはOKでも、来年1月20日以降に行われることになりそうな支援やコミットメントについては、賛同を避け、したとしても4年後、再度見直すという主張を繰り返すようになった。これは最終日を明日に控えた現時点でも同じだ。アメリカと気候変動交渉については、来年以降4年間続くことになるトランプ政権の下、どのような対応がとられるのか、本当に目が離せなくなるだろう。

祝賀ムードと、トランプショックに揺れるCOP22だが、残念ながら盛り上がりには欠けると思う。COP21での非常に激しい交渉の末、歴史的と称されるパリ合意ができたのだが、いったい何を決めるのかがはっきりしないまま始まり、ここまで来ているというのが印象だ。また、パリ合意の下の交渉と、これまで続けられている交渉との区別がはっきりとつけられず、交渉官の間でも戸惑いが見られることも事実だろう。それゆえに、すでにパリまでの道のりで解決したはずの旧来の南北問題や支援のための条件などについての議論が蒸し返され、実質的に具体的なことを決めることができていない。また、花形のCMAでも、「次回はいつ行うのか」という手続き的なことに議論がフォーカスされている(現時点では2018年再開が有効とされているが、まだ最終日の閉会までわからない)。そのおかげもあって、2020年以降のルール作りという話題には触れることができていない。日本など、パリ協定の批准が間に合わなかった国々にとってはラッキーだったのかもしれないが、今後の交渉を考えると少し懸念を抱いてしまう状況だろう。

盛り上がりに欠ける中、交渉とは別にいろいろなイニシアティブや協力が立ち上がり、マラケシュ会議に花を添えている。例えば、日米をはじめ9か国が23億ドルの追加支援を発表した気候変動センターとネットワーク(CTCN)の会合もその一例だし、各国の提出しているNDC (Nationally Determined Contribution)(各国によって提出されたパリ合意の内容の実施にかかる取り組み例)の遅延なき実施を推奨するためのパートナーシップ、2050年までの取り組みの道筋を共に歩むことを目指す2050 Pathway会合、G20とほぼメンバーを同じする主要経済国会合(MEF)など、具体的な取り組みを協力して行っていこうという趣旨での会合やパートナーシップも乱立した。国連の枠組み内ではないが、交渉で時間をかけてもむのではなく、coalition of the willingでできる国・やる気のある国が集い、早急に行動を起こすというのは、方向的には勇気づけられるのではないだろうか。

来年はフィジーが議長国を務め、COP23はドイツ・ボンでの開催となるが、それまでに一体各国ともに何を目指すべきなのか、何を具体的に国内で行っていくのか。しっかりとした戦略を立てることが必要だろう。とくにトランプショックが我々を襲っているこの現実において。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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