Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

COP22とはどのような会議だったのか(4)

「パリ協定のルール作り・運用についての交渉」

パリ協定のそれぞれの分野における具体的な行動を話し合うAPA(パリ協定特別作業部会)については、今回初めて実質的な議論が行われた(第1回会合は、2016年5月に開催された)。主な分野としては緩和全般(温暖化効果ガスの排出削減方法及び政策手段)、透明性(報告含む)、グローバルストックテーク(2023年から5年ごとに各国の削減目標の実施状況をレビューする)の3つが主なものだが、後者2つについては、意見の対立は起こりつつも比較的建設的に議論が進展したように思われる(もちろん、交渉お決まりの対立はそれなりに起きたのだが)。

今回紛糾したのは緩和、特に各国のNDC(削減努力)の“定義”についての議論で、パリ会議時に「NDCは各国の排出削減のための行動“のみ”をカバーする」と決定したにもかかわらず、中国やサウジアラビアが「適応や資金、技術、キャパシティービルディングという支援が含まれるべき」と強硬に主張し、資金をはじめとする支援事項を5年ごとに見直すことに反対の先進国と対立し、具体的な指針の内容については合意はなく、来年4月1日までに提出されるサブミッションを経て、5月6日にラウンドテーブルを開催して次のAPAに臨むこととなった。また、APAの下でいまだカテゴリー化されていない“ホームレスイシュー”について、どこで扱うべきかという議論については、今回は議論が深まることはなく、来年に持ち越されることとなったが、技術や資金といった途上国にとって重要な支援イシューを、SBSTA/SBI以外にAPAでいかに扱うかという内容は、恐らく2017年の交渉ではもめるイシューになるだろうと思われる。

そのSBI/SBSTAで取り上げられたもので、ビジネスに深く関係すると思われるものに市場メカニズムの扱いと技術メカニズムがある。

市場メカニズムについては、JCMなどのボトムアップ型とCDMなどのトップダウン型のアプローチについての進め方が議論されたが、こちらについては2017年3月17日までにサブミッションを行い、5月6日に政府のみ(ビジネスなどを含まない)非公式対話が開催され、それぞれの中身についての議論を行うことになったが、ベネズエラやボリビアの反対を受け、市場メカニズムの実質的なアクターである産業界を議論から締め出す動きがあることには大きな懸念を抱いている。ただ、明るい内容としては、結論文書には反映されなかったが、2018年までに市場メカニズムの運用ルールについて合意するというタイムラインが共有され、今後これに向けて実質的・技術的な議論が進展する見通しとなったことは評価できると考える。非公式対話には参加できずとも、産業界からはそれまでに政府に対して具体的な助言をインプットしていくべきであると考える。

技術については私自身が日本代表として交渉を行ったが、資金メカニズムとのリンケージや新たな技術枠組みの設計など、交渉としては来年も引き続き議論を行うこととなった。特筆すべきは日本も積極的にサポートし、今後、より産業界の参画が期待されるCTCN(気候変動技術センターとネットワーク)の活動実施資金不足に対し、日本をはじめとする9か国が合計2300万ドル(およそ23億円)の追加拠出を発表(16日)し(日本は190万ドル)、途上国の技術支援に対する前向きな姿勢を示すとともに、CTCN事務局に対して“他のfunding lines”を早急に検討する必要性を伝え(注:現在は、先進国を中心とした各国からのin-kindな貢献に頼っている)、GCF(Green Climate Fund)などとの連携強化を促したことだろう。NDCの実施においてもCTCNの役割が重要であることからも対応が急がれる。交渉の外にはなってしまうが、昨年、パリ会議に間に合うように米国などが音頭を取ったMission Innovation (低炭素、脱炭素技術の研究開発普及に各国が協力をする取り組み)やCCAP (二酸化炭素以外の温暖化対策ガスの削減に向けた国際協力)、主要経済国ビジネス会合(Biz-MEF)といった、技術をいかに有効に用い、世界を低炭素、脱炭素パスに乗せるかという官民一体の取り組みを通じ議論が行われているし、各国のNDCをいかに効率的に実施していくかを話し合うNDCパートナーシップでも、技術協力の重要性がハイライトされていた。今後、パリ協定に盛り込まれている今世紀末までに全休平均気温上昇を2度までに(産業革命以前と比べて)抑えるという長期目標や、日本や米国などが取り組む2050年までに排出を80%削減する(基準年はそれぞれ2013年と2005年)ためにもより積極的で実効的な技術メカニズムの取り組みが欠かせないだろう。

 

(つづく)

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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