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COP22とはどのような会議だったのか(5:最終回)

「私見として:トランプショックの影響?!」

最後に、あくまでも私見だが、トランプショックが及ぼす影響について述べておきたい。まず米国については、ほぼ確実に「2005年比2025年までに26-28%の排出削減」というコミットメントは全面的に見直され、オバマ政権の下、クリーンエア法の実施主体として期待されたEPAの権限も縮小されることになると思われる。ただエネルギー業界にとっては投資の機会が膨らみ、決して悪い状況にはならないと思われる。オバマ政権の下、様々な環境規制が課され、せっかく軌道に乗ったシェール開発が難しくなったが、それも規制が緩和されることになり、シェールオイル・シェールガスの開発・投資が再加熱し、雇用もまた生むだろうし、確実にアメリカを、ロシア、サウジアラビアとともに、エネルギーの世界BIG 3という立場を確固なものとするだろうと思う。同時に、オバマ政権の下、進められてきたクリーンエネルギーへの転換、特に再生可能エネルギーの開発と普及についても、「アメリカの利益」になり、「”失われた”エネルギー・環境技術のパイオニア」という立場を取り戻す助けになるとの認識ができれば、トランプ政権でサポートは再加速することになるだろうと思われる。パリ協定からの離脱は、宣言こそすれ、ただの外交的なカードになる可能性が大きいと考えるが、産業界やエネルギー業界、雇用創出という点では、結構大きな恩恵を生むかもしれない。とはいえ、もちろんトランプショックがネガティブに働けば、巷で恐れられている内向きで再度大量排出国としての米国に立ち戻ることにはなってしまうが。

では欧州はどうか。恐らく温暖化対策にあまり前向きとは言えない東欧諸国(特にポーランド)の発言力が増してくることに加え、ドイツやフランスで温暖化対策に否定的な反移民・反EU政党が躍進すれば、EUも対策に後ろ向きになる可能性があるだろう。実際にパリ協定を導き出したフランスも、来年の大統領選挙にむけて、非EU統合で非温暖化対策の極右政党が勢力を伸ばしているし、右派の代表となると目されるフィオン氏(サルコジ大統領時代の首相)も、政策全体はpro-EUであるが、国内産業界への配慮や経済の立て直し、そして現政権でパリ協定に導いた社会党政権との差異化から、パリ協定の実施に後ろ向きになる可能性は否めない。また、環境先進国を自負するドイツでも同様の動きがみられる。さらにはBrexitで、欧州各国のみならず世界的にショックを与えた英国も、すでにCOP22では、EUとは物理的にも主張面でも一線を画す姿勢をとっており、英国の方針とEUの方針が合致しない状況が目立ってくると、欧州全体の環境先進地域としての立場も危うくなるだろう。

中国については、もともとNDCの内容も実現が難しくない内容であるので、「パリ協定の下で大国の責務を果たす」とでも発言を繰り返して、責任ある大国を演出しつつも、実質は、米国が後ろ向きであることを口実に、さらなる野心の引き上げには応じない可能性が高く、そうなると国際的なモメンタムはしぼんでしまうだろう。また、それを理由に、新興国として排出が伸び続けるインドやその他の途上国も、国内での取り組みのスピードを遅くする可能性もあるだろう。

そんな中、日本は、2013年比2030年までに26%削減という目標達成の目玉であるエネルギーミックスの実現に向けた努力が必須となる。それには原発の再稼働も前向きに考える必要が出てくると思われる。さらには、パリ協定の内容の国内実施でリーダーシップをとり、地球環境を守るという責務の一端を担うという覚悟を見せることは必要だが、同時に、日本は、経済や産業競争力への影響を十分に検討し、革新的な技術革新に向けた世界的なリーダーシップを示すことが必要だろう。実際には、低炭素・脱炭素技術も国内にあり、これまでにトップランナーアプローチや省エネ基準などの政策措置のノウハウも詰まっている。また、ゼロエミッションハウスやビルディングといった住宅・ビル部門で排出をなくす技術もあり、世界のリーダーシップをとっている。加えて、モデルシティや循環型社会の設計など、今後、地球的な対策をとるにあたり、国際的に提示できるモデルも存在する。今こそリーダーシップをとる時期なのだ。パリ協定は歴史的合意と称えられ、産業界からも高い評価を得、また多くの機会を創出するとされているが、トランプの米国が出現し、多くの不確実性が表出する中、パリ協定の実施において、日本政府も産業界もどこまで世界でリーダーシップをとっていくつもりがあるのだろうか。今こそ、国を挙げて戦略を練るべき時であろう。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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