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イタリア・レンツィ首相の誤った判断

自らの政権が進める改憲の是非をめぐって、イタリア・レンツィ首相が12月4日、国民投票に打って出た。その国民投票を行う旨が発表されてから、イタリア国内はもちろん、欧州各国のメディアでも「国民投票」に対する判断の誤りを指摘する声が多かった。

実際に、国民投票にかけられた改憲案の中身は、
・上院の定員315人から100人に削減
・議決権を下院に集中
・議会制度を事実上の「一院制」に変える
というようなものであったが、私が抱く疑問は、「本当に今、このような内容の改憲案を国民投票にかけるほど、最重要課題として打ち出すべきだっただろうか」ということだ。まず、イタリアは民主主義の2院制をとる政府には珍しく、上下院の権限が同じというものだが、今回、その権限を下院に集中させるという“提案”を行った。日本に例えると、上院が参議院、下院が衆議院なので、まあ、すでに前例としては成り立っているのだが、そもそも持っていた権限を手放すものなどいるだろうか。また、日本でも話題に上っては議論が遅々として進まない議員定数削減案を国民投票にかけたのは、「国民は今の政治に飽き飽きしているに違いない!」と思って、その“判断”を国民に委ねたのだろうが、ローマ、トリノの大都市の市長選ですでに五つ星運動に大敗を喫しているあたりで、「今、自分には国民の支持は後押ししていない」と感じることはできなかったのだろうか。国民の声を聴き、その声を政治に反映させる、というのは民主主義上、素晴らしいことと捉えられるべきかもしれないが、あまりにもギャンブルに出たなと思えます。

 

褒めるべきは、英国のキャメロン前首相ばりに、敗北をさっさと認め、自ら責任を取って退陣することでしょう。これは日本の政治家には見られない潔さを感じますが、同時に、一国のリーダーとしての“自覚”に欠けた行動にも思われます。Brexitで犯したキャメロン氏の“ギャンブルの失敗”からレンツィ首相は学ばなかったのでしょうか。それとも同じく「政権の支持率の浮揚」を狙ったのでしょうか。どちらにせよ負けは負けですから、公約通りにお辞めになるのでしょう。

 

ちなみに、イタリアの政治制度からして、今後暫定内閣が組閣されるのか、解散総選挙となるかで、イタリア政局の動向が大きく変わります。イタリアは大統領制の国家なので、議会の解散権は大統領にあります。同様に首相の指名権も大統領にあります。

もし、今、解散総選挙となれば、これまでローマ、トリノの市長選も制したポプュリスト政党の五つ星運動が勝利する可能性が高く、その場合、以前から何度も浮いては沈んでいる“ユーロ圏からの離脱”が大きなリスクとなります。

尚、イタリアには憲法に国際条約の破棄に関する国民投票を禁じる条項があるため、五つ運動の勝利がそのままEU離脱には結びつかないことに注意が必要です。(この辺りがBrexitとは違うところで、イギリスよりもはるかにEUそしてEuroからの離脱が現実味を帯びますね)。

現時点では、まだ、マッタレッタ伊大統領がどのような判断を下すか全くわかりませんが、イタリアがかねてよりEUにとってToo big to failの加盟国であることを鑑みると、イタリア自身はもちろん、EU全体の命運を左右しかねない政治的な判断とバランスが、今、イタリア大統領には必要とされています。適切な判断をされることを願います。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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