Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

核兵器削減合意の無意味さ

今日、共同通信を通じて「トランプ氏が大統領就任後、プーチン露大統領と協議し、核兵器削減に前向き」
https://this.kiji.is/193549856714424323?c=113147194022725109
との報が伝えられた。実際には英紙タイムズとのインタビューで述べられたことだが、「核兵器削減」と聞いて、国際社会も日本もとてもポジティブな反応を示すのではないだろうか。

紛争調停の任に当たりつつ、核兵器削減の調整も過去にさせていただいた身からはっきりと言えることは、「核軍縮」ほど国際情勢を見るにあたって意味のないものはないということだ。

米ロの歴代首脳が(アメリカについてはレーガン大統領以降、そしてロシアについては、ゴルバチョフ書記長以降)がこれまでに”核軍縮”に数度合意し、またSTART枠組みまででき、書面上は何千万発という核弾頭の廃棄に合意しているが、それは核兵器およびその総合的な威力の純減ではなく、実は削減した量や威力に相当するか、それを上回るだけの兵器(核戦力)が新規に開発され、配備されるだけであるというのが事実だ。

米ソのデタント(緊張融和)を国際政治上演出し、冷戦の終わりを告げるためには、とても目玉になった米ロ(米ソ)による核兵器削減合意だが、これまで実情を見てきて思うのは、「威力」つまり「破壊力」で見る核戦力の拡大競争は決して終わっていないということだ。一発撃ち込むことで破壊できる威力が、年々、増大し、大げさに言えば、核兵器削減合意で約束される数百万発の核弾頭に匹敵する破壊力を、新たに開発・配備される一発で補えるということなのだ。米ロ、そして英国、フランス、中国、インド、パキスタン、そして公式には認めないがイスラエルなどが保有する核弾頭と核開発能力は留まるところを知らない。ゆえに、世界全体で見たとき、核軍縮など実際には起こっていない。また最近では、ISやアルカイダ、その他、“テロリスト”と揶揄される非国家組織が核戦闘能力を持つ恐れについても語られているが、それが現実のものとなったとしたら、核は縮小されるどころか、拡散し、またコントロールも不能になってしまうということになる。

もうすぐ退任するオバマ米大統領は、就任直後、プラハでの演説で「核なき世界を目指す」と述べ、世界の期待を集め、その年のノーベル平和賞も受賞した。8年の任期を終えようとする中、残念ながら「核なき世界とは程遠い」というのが実情だろう。これは、昨年、歴代米大統領としては初めて広島を訪問した快挙をもってしても、残念ながら事実と言わざるを得ない。今回、報道内容やトランプ氏の発言の真意がどうかは別として、仮に彼がロシアと目指す「核兵器削減合意」が、「核なき世界」への序章であるなら全面的にサポートしたいと思う。しかし、単純に、核軍縮合意への“可能性”で喜ぶようなことはしたくないし、するべきではないと思う。

核兵器を、さらなる悲劇を防ぐための抑止力、とみる見解は多い。私自身も、国際安全保障に携わる身としては、抑止力的な側面があることは認める。なぜならば、そもそも核拡散が進み、核兵器の軍拡競争が起こった理由は、互いへの不信と恐怖心であり、残念ながらそれは「相手よりも力によって勝る」ことで拭えると考えられているからだ。昨年、日本政府が反対したことで話題になった「核兵器禁止条約」への取り組みは、「持つもの(核兵器保有国)」が本気で廃絶に向けた動きを実行していかないと決してうまくいかず、あくまでも「禁止や廃絶を語っていることに快感を見出す」だけに過ぎなくなってしまう。

トランプ氏は型破りな大統領になるだろうし、言動も予測不可能だが、もし仮に彼が偉大なリーダーになるのだとしたら、その型破りな性格を活かして、ぜひ核兵器をこの世から廃絶するためのリーダーシップを取り、保有国を纏めるような行動を実行してもらいたい。限りなく困難な仕事ではあるが、彼が変わり者であり、それでいて実行力があるのだとしたら、今、前に動かないこの問題に風穴を開けてくれるかもしれない。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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