Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

新たなテロの脅威?!- Dがもたらす恐怖の時代

ランサムウェア問題が提起する新たなテロリズムの形

 

先日、ウイルス対策ソフトの会社が合同で行ったアンケート調査によると、ランサムウェアに襲われた企業の担当者のうち、なんと83%が犯人の要求通りに“身代金”を支払ったそうだ。その平均額が約500万円というからその規模がいかに深刻かわかるだろう。ZIP形式のファイルや不正リンクなどをメールで送りつけ、不用意に開いたりするとそのPCを開けることさえできないようにしてしまう(重要ファイルなどに勝手にロックをかけてしまう)。そのロックを解くために、身代金を払い遠隔操作で“解放してもらう”か、そのためのソフトを高額で買わせたりする手口だ。最近、単なるウイルスよりも精巧になり、また被害額も年々大きくなってきているようだ。そのアンケートの最後には、ウイルス対策ソフトの各社が「今のところ乗っ取られてしまうと手の打ちようがないが、企業からの相談がひっきりなしにある」とのことで、恐ろしい時代になったものだ、と感じていた。しかし、今日、新種の4種類のランサムウェアについては解除するためのプログラムを無料で提供する、とのニュースがあった。

http://response.jp/article/2017/01/24/289051.html

 

その効力や、信ぴょう性、そしてこの業者への信頼など、様々な検討項目はあるが、まずは良い方向に進んだのではないかとの印象をもった(仕事柄、どうも疑い深いのはお許しください)。この対象がさらに広がり、ランサムウェアによる被害を軽減・撲滅することに寄与してもらいたい。

 

さて、今回のタイトルは、このランサムウェアをテロリズムと呼んでいるが、どういうことだろうか。通常、テロリズムという言葉を聞くと、ならず者が民主主義国家を襲うとか罪なき人たちを無差別に殺傷する、などという事件を想像することが多いだろう。最近では、アルカイダやIS、欧州各国で起こる無差別大量殺戮などがその部類に入れられる。また、物理的な殺傷を想像するので、武器を想起させる。2001年9月11日のニューヨーク・ワシントンDC同時多発テロ事件の際、実際に民間航空機が乗っ取られ、Twin Towersに突撃したり、難攻不落とされたPentagonに突っ込んだりしたショッキングな事件がクローズアップされるが、実はあの時、安全保障の専門家や対テロリズムの担当者たちの脳裏をかすめ、一瞬恐怖を抱かせたのが、その航空機にA (核兵器)、B(生物兵器)、C(化学兵器)が持ち込まれていないかということだった。幸いABCと呼ばれる大量殺戮兵器は搭載されていなかったが、その後の“テロとの戦い”では、そのような兵器がテロリストと呼ばれる者たちの手にわたっていないか否かという制御不能な恐怖に対応する必要が出てきた。ソビエト連邦が崩壊したことで冷戦が終結し、ソビエト連邦がコントロールしていた核や生物・化学兵器も、混乱の中、各地に散らばり、中にはテロ指定組織にわたったという噂もある。事の真偽は分からないが、確実に脅威のレベルは上がり、また驚異の種類も多様化していることは確かだ。

 

しかし、ABCの脅威を上回る新たな兵器が現代には登場している。D (digital)だ。インターネットがもともと軍事技術であることは多くの方々が知っていることであるが、その発展とともに、デジタル技術が新たな“大量殺りく兵器”として安全保障コミュニティに登場していることをご存じだろうか。コンピューターウイルスに端を発し、今はランサムウェア、そしてすでに登場している無人爆撃機やドローンを使った暗殺など、デジタルを用いた兵器へと発展している。SF映画のような話に思えるかもしれないが、軍事的な面では、Situation Roomでスクリーンを眺めながら、機関銃や小規模ミサイル・爆弾を積んだドローンを操縦し、爆撃や暗殺を行えるのはすでに“現実化”している。今後、よりその傾向が高まり、自国の軍隊の兵を失うことなく、オートメーション化された戦争が可能となる。これが軍事的な表の話だ。では“テロ”とまで呼ぶ可能性はなにか。それは、ABCの制御システムにDで攻撃し、ABCの発射を意図に関係なく行い、武力衝突を引き起こすようなケースだ。私が子供のころ、War Gameという映画があった。たまたま一少年がプログラミングに成功し、誤って本物の軍事システムに入り込み、米ソが核ミサイルの発射寸前までいった、という物語だ。「こんなこと、本当に起こったら大変だろうな」と思ったものだが、今やそれは想像の世界に留まらず、いつ現実化してもいい世界にきている。また、Dを用いることで「誤った世論捜査」も可能だろう。最近では、ロシアが昨年の米大統領選挙の際にサイバー攻撃を仕掛け、クリントン候補に不利な情報を流し、トランプ氏勝利に貢献したのではないか、とのニュースがあるが、その真偽はともかく、実際に行えるような世界になっていることは事実だろう。

 

デジタルやサイバーそのものが人に物理的な危害を直接的に加えるわけではないが、デジタルやサイバーアタックを通じ、世界中の軍事システムを狂わせ、人間の“良心に基づく”制御を破壊し、物理的な破壊を導く可能性は否定できない。 アメリカ大統領選挙へのサイバーアタックのニュースを見て、「アメリカも大変ね」とか「ロシアも悪いのね」という呑気な姿勢でニュースを眺めていないだろうか。Dの世界では、国境など関係なく、いつどこからでも“攻撃”を仕掛けることができる。ゆえにいつ私たちが“被害者”になるか分からない。日本政府内でも、専門家が集い、サイバーテロへの対策が行われていると聞くが、規模と防御レベルという点ではどうだろうか。専門家の方々の意見を伺いたい。

ただ、私がずっと関わっている国際安全保障のコミュニティやAnti-Terrorismの世界では、すでにABC以上の脅威としてDへの対策が急がれており、私が行う紛争調停の現場でも「デジタルへの脅威」への対応が必要となってきている。詳しくはお話しできないが、調停官が納める紛争は、もう物理的な紛争だけではなく、サイバー空間で繰り広げられる紛争も対象となってきているのだ。今回は昨今話題のランサムウェアを通じてDへの脅威を取り上げましたが、皆さん、Digitalの脅威への備え、もう十分にできているでしょうか。

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

SNSでフォローする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事
No articles