複数の友人や仲間から勧められ、ロレッタ・ナポリオーニ著『人質の経済学』(Loretta Napoleoni “Merchants of Men”)を読んでみた。全体を通しての率直な感想は、「ここまで書いてもいいのだろうか」という驚きだ。私自身が中東のプロセス、特に紛争調停プロセスに携わる中で、見聞きしている状況が見事に紹介され、纏められている。その一つ一つをここで私が紹介することはできないので、詳しくは彼女の著書を読んで知っていただきたいが、決してメディアが報じず、また政府も認めない現実が詰め込まれている。
年齢は違うが、私と同じジョンスホプキンス大学国際学高等研究所(The Johns Hopkins University Paul Nitze School of Advanced International Studies: SAIS)の卒業生ということもあり、Lorettaとは個人的にも親交はあり、仕事でも何度もご一緒しているので、思わず読後、メールしたほどの内容が詰まっていた。ちなみに、彼女はマネーロンダリング、特にテロリスト組織がいかにして資金を集め、それを浄化し、利益を得ているのかを解明する専門家で、今回もその専門性を活かした内容になっている。
特筆すべきは、「誤った安心」を各国政府が自国民に与えており、そこに付け込まれて中東において人質となってしまう仕組みや、「国際協力」への幻想を元に、ろくな経験もなく、ゆえに経験から得られる勘も養えず、さらには自分の身を護るための“常識”も持ち合わせていない夢見る若者や人々が、いかに格好の餌食になっていくのか、そして国際政治に翻弄され、「生きた“商品”」化していくのかが、実際に人質となり、幸運にも生きて戻れた人たちの生の声をインタビューを通じて紹介し、「誤った安心」を植え付けられている私たちに警鐘を鳴らしている内容だ。
そして本書は、最後にBrexitによる影響や、難民をめぐる破滅的なシナリオがどのようにして欧州に訪れるのかという見解を示して本書を締めくくっている。日本や北朝鮮情勢についての言及はないが、いろいろと得られる教訓が多いのではないだろうか。
関連する実務に携わる者として、このような実情を伝えてくれたことへの敬意を感じると同時に、「一体、世界でどのようなことが起こっていて、どのような危機的な状況が自分にも起きうるか」と関心を持ってみているか、「誤った安心感」に惑わされている皆さんにぜひ読んでいただきたい内容だ。「本当かな?」と信じたくないような内容にも思えるだろうが、確実にショッキングな“真実”を伝える内容だと思う。