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現地報告:ボン気候変動交渉(第1週)

5月9日に開会した気候変動会合は、3つの作業部会が並行して交渉を行っている。一つは、2015年12月のパリ協定合意を受けて、その実施のための作業部会である「パリ協定特別作業部会(APA)」の3回目の会合(注:開催は3回目だが、まだルール作りを行う第1段階のため、APA 1-3と呼ばれる)と2つの補助機関会合(実施のための要素を交渉するグループであるSBIと科学的技術的な観点について議論するSBSTA)の3つだ。

まずAPA1-3については、短い全体会合の後、ここまでは緩和や透明性、グローバルストックテイク、適応基金にかかわる事項、遵守と実施に関する交渉など、各テーマに分かれて並行して交渉が行われている。緩和については、あくまでも削減行動についての内容が各国のNationally Determined Contribution (NDC)のテーマであるべきとする先進国と、従来、削減の実施のための支援(資金、技術、能力開発)についての内容も含まれるべきと強硬に主張して議論をブロックする中国やサウジアラビア、アラブ諸国などがぶつかり、ほぼまともな議論が行えないまま、1週目を終えた。ただ、面白い現象が起きているのは、これまで交渉において強硬な姿勢を主張することが多かったブラジルや南ア、ラテンアメリカ諸国、最貧国などは、議論を進めるべきとの姿勢を取り、具体的な内容について意見を表明していることだろうか。それを受けて、各国の意見や主張の共通点や相違点などを含んだ成果文書が作成され、2週目には首席交渉官級での協議を行うこととなった。来年のCOP24でルールブックを作る必要があることに鑑みるとスピードが遅いことは懸念材料となるが、一応、前進はしていると評価できるのだと思う。

次に透明性の議論だが、緩和の議論に比べれば着々と交渉は進捗しているような印象だ。ただ、緩和や適応の努力についての議論に割かれる時間が、技術や資金などの支援についての議論に比して大幅に少ないことには懸念をもって見ている。例えは悪いかもしれないが、「行動することは約束するが、まずは先立つものを先進国よ、よこせ!」というような議論に聞こえてくるときがある。先進国、途上国の別なく、パリ協定の下、どのような努力を行っているのかを国際的に明らかにするという、パリ協定実施において非常に重要な要素を扱っていることからも、建設的な議論を行うべきだろう。

3つ目は、APA交渉の特徴といえるGlobal Stock takeについての交渉だろう。本来、パリ協定の下、「一体何を、定期的に、進捗状況を精査するのか」という、パリ協定実施における健全性と効果を担保するためにはとても大事な要素なのだが、ここでも緩和の議論と同じく、「そもそも何をカバーするのか」で大きく主張が分かれており、今回、何かした進捗があるか否かは、不透明な状況といえる。2018年12月開催のCOP24で、パリ協定の実施規則(ルールブック)が合意されるにあたり、必須の要素であることと、実際のGST(2023年開催)の前に2018年にそのプロトタイプとなるストックテイクを行う予定であることから、このまま具体的内容が詰まらないと、その実施さえ危ぶまれ、パリ協定の実施に黄色信号が灯ることになるだろうと懸念している。

そして4つ目が、先進国と途上国(特に島嶼国や最貧国)との主張が大きく分かれているのが、パリ協定における適応基金の扱いについてだ。もともとは、CDMの利益の2%を適応基金の原資として徴収するというシステムで運用されてきたのだが、京都議定書第1約束期間も2012年に終わり、その精算も2015年から2016年にかけて完了したことから、CDMの実施がほぼなくなり、適応基金の原資が無くなってしまう事態になっている。それを受け、「何か新しい資金源が必要」と焦っているのが途上国であり、全体会議をブロックしてでも、本議題の議論を要求するほどの勢いを示している。任意拠出も含め、かなりの負担増が見込まれる日本をはじめとする先進国としては、拠出範囲や額面などについてかなりナーバスになっていると同時に、そもそもパリ協定の再交渉の様相を示しているのではないかとの指摘も上がるほど、神経質になっている。ただ、島嶼国などにとっては死活問題とさえ主張する内容なため、かなりの難航も予想される。

一応、2018年末(実際には12月開催のCOP24)までにルールブックを作ることになっているからなのか、気候変動交渉というとAPAという注目がされがちに思われるが、実際に、中身の議論が行われているのはSBSTA/SBIという従来からの補助機関会合における議題だ。例えば、私が担当している技術交渉については、パリ協定の第10条に記された技術枠組みやメカニズムをパリ協定の実施においていかに運営していくか、従来からのメカニズムとの整合性、技術開発と移転に関する国際協力においての進捗状況をいかに評価するか、などの議論が淡々と進められている。また今年末には、途上国への技術支援への要請を実際に受けつけ、知見や技術を有する研究機関や企業、国際機関などにプロジェクトを振り分ける気候変動センターとそのネットワーク(CTCN)のホストの見直し作業も行われる。現在はUNEP/UNIDOが代表するコンソーシアムになっているのだが、スタートから5年がたつ今、正直パフォーマンスとしては芳しくないと言わざるを得ない。そもそもCTCNの運営が資金的に成り立っていない状況であるし、また諮問委員会(Advisory Board)も交渉の前哨戦の様になってしまい、実際、プロジェクト実施には寄与できていない。かといって、現在、その後任を務めようという国際機関なども皆無であることから、技術枠組みとメカニズムの根本的な立て直しが求められる事態になっている。そのような中、いかに2018年までに新たな枠組みに合意し、メカニズムを立て直すかを交渉で決めないといけないが、当事者として、まだあまり具体的な案があるようには思えない。同じ支援系でも能力開発(capacity building)についても、今回の会合で第一回の専門家会合(PCCB)が開催されたが、長年の夢!と途上国が叫ぶ割には、全然中身が詰まっていないと言わざるを得ない状況だと言える。今後、どのようにその会合・委員会を通じて、キャパシティービルディングの取り組みが現実的に強化されるのかは分からないが、これまでの交渉の経験に鑑みると、正直、さほど期待はできないだろうと思っている。

資金についても交渉の進捗状況はとても遅い。これまでに繰り返されている先進国と途上国の意見の亀裂が繰り返されているという点に加え、今回は、やはりトランプ政権のアメリカの出方、とくに今後は一切の資金供与から手を引くのではないかとの憶測から、先進国・途上国の別なく、様子見(wait and see)のモードが漂っていることも、進捗状況が思わしくない要因となっているのだと思われる。2020年までに年間1000億ドルという中期目標へのコミットメントもあいまいになっている気がするし、グリーン気候基金(GCF)への拠出と運営についても様子見の雰囲気が感じられる。

また今回の交渉会合の特徴なのが、途上国グループ内の調整が全くと言っていいほど機能していないということだ。通常、その年の途上国グループ(G77+China)の議長国が最初に発言し、その後に各地域グループが、その意見を踏まえつつ意見を述べるのだが、今回についてはそのような状況は機能しておらず、余計に交渉をややこしくさせているように思われる。恐らく11月に開催されるCOP23までには修正してくるのだと思うが、今回の会議ではそれといった進捗がみられない可能性がある要因の一つになりそうである。

最後に日本の交渉団はどうかというと、全体的に見れば、頑張っているのではないかと思う。SBSTA/SBIなどの議題では淡々と意見を述べ、また議論にもポジティブに貢献できている。ただ、SBの会合での貢献について報じるメディアはなく、またその交渉を追うNGOもいない。実際に目立つのはAPA交渉であるのだが、残念ながら、そこでは日本のプレゼンスは感じられない。埋没している感じさえ感じられる。かつてはこのような政治的な交渉の場でも、「日本は何を言うだろうか」と注目を浴びていたのだが、ここ最近は、それはないようである。
残念ながら、それは今回の会合1週目でも同じ。

交渉も残すところあと4日間。交渉の進展を望むと同時に、日本が気候変動交渉の場で再度プレゼンスを取り戻すことを切に祈りたい。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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