Kunihiko Shimada Official Blog 国際交渉人 島田 久仁彦公式ブログ

交渉の極意:チームワークの大事さ:交渉の現場から

『チームワークの大事さ:交渉の現場から』

 

私が交渉官や調停官という仕事を生業にしてもうしばらく経つが、素晴らしいチームそしてチームワークの存在が、交渉や調停を成功させるためには不可欠であることを本当実感している。よく「交渉に行かれる際には、お一人でいかれるんですか?それともチームで?」という質問を受けるが、私の答えは「It depends…」(まあその時によりますかね)だ。ただ、形式はどうであれ、チームを組んで交渉に赴くことには変わらない。

 

私の典型的なチームの組み方としては、「交渉官・調停官(スピーカー)」、「法務専門家」「財務専門家」「Minutes person (記録係)」、そして「扱う内容の専門家」もしくは「サイレント・ボス」だ。

 

はじめに、私が務めることが多い交渉官の立場では、与えられた権限に基づいて、さまざまな方向から、さまざまな方法を用いて、交渉をリードするべく発言をする。合意に至るべく、どのように交渉を進めるか、どこに落としどころを見つけるかといったことを考えつつ、さまざまなツールを駆使する。交渉の場で、実際に発言をするのは、この交渉官のみだ。話をしながら、相手の反応を敏感に感じ取り、自らの発言内容やトーン、表情などを、微調整しながら進めていく。

 

次に法務専門家だが、この役割では、交渉において刻一刻と変わる内容を追いつつ、それが自国の法のみならず、国際法や慣習、相手の国の法律、多国間の場合は、関係国の法律などに抵触するものでないかを瞬時に判断する役割を追う。政府の交渉官の場合、もっとも大事なのは自国の法に準拠して違法にならないかを判断することたが、私が関わることの多い多国間の場合は、関係国すべての法と国際法が対象となる。スピーカーが話している内容が、法に抵触しないか、どのような解釈が可能か、など、法律面からの分析を即座に行い、交渉官にメモなどでインプットする。

 

3人目が財務専門家だが、この役割は、法務専門家の金融・財政バージョンと考えれば分かりやすいかもしれない。交渉において、駆け引きを行っていると、刻一刻、その内容がどのようなcost implication(コストが発生する可能性)があるか、どのような利益を生むか、などの数字が変わってくる。その変化を即座に計算して叩きだし、交渉官にメモなどでインプットを行う。法務専門家からのアドバイスと同じく、財務専門家からのアドバイスも交渉中にどんどん交渉官に入ってくるので、交渉官としては話しながら、その内容をもとに、発言内容を微調整したり、先の発言を「間違い」として即時に取り消したりして、内容の修正を行う。

 

4つ目の役割が、minutes person (記録係)だが、私の経験上、この役割ほど重要で難しいものはない。交渉が行われている間、ひたすらこちら側の交渉官と相手側の交渉官(たち)の発言を記録していく。私も実感するときもあるが、交渉でのやり取りはとても流動性に富んでおり、相手からの発言に“それなりに”応じた発言を返しでするので、わざとかどうかは別として、それぞれの発言に影響されやすい。その流れをずっと追い続け、発言内容の方向性がずれていたり、矛盾が生じたりした際に、このminutes personがそれをメモ等で、その場で指摘する。何を隠そう、私もよくこのご指摘を受けるのだ。交渉官の駆け出しのころ、よくこの重責を担わされたが、そのころはまだその重要さが理解できておらず、逆に「記録係なんてつまらない」と膨れてもみたのだが、今となっては、「もしかして交渉において最重要な役割ではないか」と思っており、私がチームを組む際には、本当に優秀で信頼できる人を選ぶ(大体は、いずれ交渉官の役割を担う人)。私も交渉や調停のコツがわかってくると、話の流動性を逆手に取り、相手の流れに乗せられているふりをしつつ、誘導質問などをしながら、私の持っていきたい方向に導くことが多々ある。(この内容については、また別の機会に、power of “good” questionsとでも題してお話しできればと思う)しかし、そのようなトリックややり取りも、優秀なminutes personの手に掛かればすぐにばれてしまう。そして私にとっては、自分のやり方を見直すためのよい教材にもなるのだ。記録係という語訳だと何だか語弊があるような気がするが、交渉の結果を左右するほど実はとても重要な役割なのだ。

 

そして5つ目の役割が、サイレント・ボスもしくは、扱う内容の専門家だ。後者については、さほど説明が必要ないだろうが、扱う内容について深くそして広い知識があり、代表している部局や製品などの内容を知り尽くしている人物である。その内容の専門家については、私のチームの場合、いざというときにとても専門的内容についても応えられるよう、専門家チームがバーチャルに控えていて、いつでも連絡が取れ、アドバイスを貰えるスタンバイ状態においているのだが、ほとんどの内容ならば、同じテーブルにいる専門家が対応できる。とはいえ、彼・彼女が直接発言することは、私が戦略的にそうすることを決めた場合を除き、まずない。他と同じく、メモを送るか、そっと私に耳打ちすることが多い。では「サイレント・ボス」とはどういった役割だろうか。実はこの人物は、案件についての“決定権”を有することが多い。会議中、テーブルのどこかに静かに座っているが、一切、発言はせず、休憩時間などにそっとチームと方針について話し合う。私は、交渉チームを編成する際には、クライアントからほぼ全権をいただいているので、あまりこの「サイレント・ボス」が同席することはないが、同席の場合は、口をつぐんでおくことを要請する。彼や彼女が“ボス”なのに、どうして話させないか。それはボスは忙しく、自分の忙しさ(物理的にも心理的にも)と時間のなさゆえに、拙速な判断を行いがちだからだ。「島田さん、もうこれくらいでいいですよ。合意しちゃって。」というのが典型的なケースだが、実際には「もっとこちらにとってはもちろん、先方にとっても、双方にとってもベターな結果が出せますけどねえ」ということが多いのだ。その“もったいない”状況を防ぐためには、ボスには、本当に必要な時、つまり署名の際にのみ(そして必要に応じて、交渉チームの権威付けのために最初の挨拶にのみ)登場してもらう。

 

ここまでが主な交渉チームの編成だが、5人から6人が揃うこともあれば、誰かが複数の役割を掛け持ちすることもあるし、交渉官が一人で全部の役割を受け持つケースもある。一人ですべて行う場合は、交渉後はかなり疲弊するし、自分が分裂するような感覚が襲ってくることもあるが、あまり表立って交渉できないケースなどでは、一人のこともある。ちなみに、このチームにおいて、もっとも目立つのはスピーカーである交渉官なのだが(だから私は好きなのだと思うが)、実は王様(リーダー)はいないのがルールだ。皆、それぞれの役割を担い、責任も負うので、チーム内での上下関係はない。(とはいえ、目立つ分、ダメな時に表立って批判されるのは交渉官だが。)これは、私のボスであったセルジオ・ヴィエラ・デメロ氏が「デメロ・マフィア」と通称されたチームを作る際に徹底したルールで、とっても若かった私もチーム内では同等に扱っていただいたことに起因するのだが、私もこのルールを徹底している。

 

さて、5月8日から、ドイツ・ボンで行われている国連気候変動枠組み条約交渉会合で私は技術の議題を担当させていただいたが、そこでも、他のメンバーが気付いているかは知らないが、このチームのアイデアを私の中では実行している。お名前は伏せるが、財務・法務については、基本、チーム内にはおかず(法務については私が兼務している気もするが)、政府交渉官内の法務専門家に相談する形式をとる。サイレント・ボスとしては、経済産業省のK氏と環境省のT氏を置き、minutes personとしては、W氏とM氏の2枚看板で臨んでいる。W氏とM氏と組むようになってもうしばらく経つので間違いのない信頼感を寄せているし、K氏やT氏も、本来は自分で交渉をしたいところだろうが、私に任せつつ、結果については政府内の調整を行うという大切な役割に徹してくださっている。ゆえに、今回の交渉でも、非常によい結果を残すことができたし、そのために私も自由に駆け引きを仕掛けることができた。本当に素晴らしく優秀なチームとして交渉にあたることができ、私は本当にラッキーだと思うし、誇りにも感じる。

 

帰国後、またいろいろと交渉や調停の案件が入ってきているが、とても気分よく臨めそうだ。今日もこの文章を書きつつ、次の案件でチームを組むメンバーたちとの打ち合わせが始まっており、心は、今いるボンの会場から、次の案件に移りつつある。

 

「信用できるメンバーでチームを組み、互いを尊重し、同じ方向を向いて仕事をする。」

 

難しい交渉や調停をを成功に導くコツを聞かれたら、恐らくこれが答えだと思う。

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

SNSでフォローする
Comments (2)
  1. 岡林 玲子 より:

    「英雄たちの選択」からこのサイトにたどり着きました。専門の官僚、財務関係専門家、記録係など、しっかりとしたプロのチームワークで活躍していらっしゃるのですね。島田さんのような方が、冷静に、かつ穏やかに、舞台裏で活躍していらっしゃるのを知り、門外漢の素人でも、ほっとする思いです。
    「5月8日から、ドイツ・ボンで行われている国連気候変動枠組み条約交渉会合で私は技術の議題を担当させていただいた」とのこと、
    温暖化の対策、各国、それぞれ事情があって、難しい交渉かと拝察しますが、
    どうぞ心身ともにお大切になさいますように。よいお仕事となりますよう。(ご返事は不要です。)

  2. 岡林 玲子 より:

    猛暑対策、みなさま慣れていらっしゃるでしょうが、私も家族も気をつけたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事
No articles