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【著書紹介】トーマス・シェリング著『紛争の戦略』

Thomas C. Schelling, The Strategy of Conflict (1980)

トーマス・シェリングによって書かれたThe Strategy of Conflict (邦題は『紛争の戦略』)を久々に読んだ。前回はアメリカ・ジョンズホプキンス大学国際学高等学院(SAIS)で紛争解決(Conflict Resolution)の研究をしている際だが、その後、国連紛争調停官として多くの国際紛争の調停や、その後、日本政府にて気候変動問題の交渉官を務めたり、また最近、調停の仕事に戻ったりして、再度、手に取ると、オリジナルは1960年に書かれ、いくつかの補講が加えられたのが1980年であるにもかかわらず、2017年現在の国際情勢を見るにあたって、今でもvalidであるし、また自らの紛争調停や交渉の仕事においてのバックボーンにもなっているのだということに気づかされる。とても驚くと同時に、古典的な著作のすごさを思い知らされた。

 

詳しくは、実際に読んでいただければと思うが、氏が2005年にノーベル経済学賞を受賞した際には、この著書は『紛争の戦略』というよりは、『ゲーム理論』の本として称賛され、邦題でも『紛争の戦略:ゲーム理論のエッセンス』となっている(注:現代はThe Strategy of Conflictで、ゲーム理論(Game Theory)とは書かれていない)。ただ、実際に読み進めていくと、交渉について、その戦略を詳細に記述していく際に、さまざまな仮定を用い、国際紛争から日常生活における様々な紛争をいかに解決していくのか、その戦略について述べる際に、ゲーム理論的な説明がされている。

 

国際紛争の描写は、書かれた時代的に、米ソ冷戦時代のエピソードが用いられているが、ソビエト連邦が崩壊し、ロシア共和国とその他になった今でも、軍拡競争の持つ“意味”や、先制攻撃論の“意味合い”などについては、いまだにrelevantであると感じる。また、今年に入り、チキンレースともいえる北朝鮮による国際社会への挑発や“瀬戸際外交”についても、まるで現状を見透かしたような戦略的な説明が展開されている。特に、そのような緊迫した状況下で決断を下す要因や心理的な状況などについても説明がなされており、とても驚く結果になった。軍縮や、奇襲攻撃、先制攻撃、そして核の脅威の拡散など、いろいろと今の時代においても脅威が高まってきているが、氏も書かれているように、補遺Aにおいては、広島・長崎に原爆が投下された1945年以降、“未だに”核兵器が世界で使用されていないという前提で書かれており、それが2017年の今でもなお、“事実”として受け継がれていることはとても幸運であると考える。

 

私が交渉や調停、コミュニケーション術の講義を行う際にも述べるが、交渉や介入の目的をはっきりさせ、リマインドし続けることの大事さや、当事者間で保持する情報は質量ともほぼ100%非対称であるとの前提で臨む必要性などにも触れられている。実際に交渉や調停に携わる身としてハッキリ言えるのは、それらは“理論”ではなく、“実践”において必要な知識であり、心理であるということだ。

 

方程式や数式なども理論の説明や仮定の描写などで多く使われるため、難解にも感じられる。しかし、最近、拙著も含め、多く交渉術の本も出版されているが、その中ではいろいろとツールや心理について述べられているものも多いが、もしかしたらほとんどの交渉についての良書が倣っているのは、もしかしたらこのThe Strategy of Conflictなのではないかと思われるほど、現在の交渉術のベースになっているのではないかと考える。もちろん、それは、私自身の交渉術や調停術にも通じることである。

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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