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語学:多言語を操るためのコツ- 『その他の外国語etc.』

『その他の外国語etc.』(黒田龍之助 著)

どこだったか忘れてしまったが、お勧めのリストに登場したのがこの本。なぜかとても興味をそそられた。実際には「マイナーといわれる語学はこうやってマスターしましょう」という本ではなく、ロシア語専門で、かつスラブ語を次々と勉強される著者が経験した様々なエピソードがまとめられたエッセー集のようなものだ。非常に面白く読むことができた。

一般にメジャーな言語といわれるのは、国連公用語にもなっている英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語の6か国語と、医学や音楽を専門とされる方たち(そして気候変動交渉官たち)が勉強するドイツ語、グルメでオシャレなイメージが漂うイタリア語、あとは昔から馴染みが深いと思われるポルトガル語ぐらいだろうか。本書では、“その他”はとは英語・フランス語以外というような感じだが、非常に多岐にわたる言語にまつわるエピソードがつづられている。

さて、私自身、よく“いろんな言葉を使う人”といわれることが多いのだが、実際には、ちゃんと“使える”といってもいいだろうと思うのは、日本語以外では、英語とフランス語ぐらいだろう。これらについては、とてもハイレベルな交渉においても心配なく使える。これ以外の言語は、簡単なあいさつや日常会話レベルに留まる。言い換えれば、アイスブレイキングに使うための言語だ。数えてみたら、12か国語ぐらいになるだろうか。私はとても食いしん坊で、寂しがりや(お話し好き)なので、挨拶や飲み物・食べ物にかかる言い回しや単語はすぐに覚えることができるようだ。あとは素敵な友人が話す言語も比較的関心が募り、覚えようとするインセンティブが高まる。ブルガリア語やスウェーデン語・デンマーク語などがそうだろう。加えてドイツにはよく行くので、ドイツ語も足すことができるし、食べることが好き!ということで、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語も、似ているからということもあるのかもしれないが、リストに入れてもいいのかもしれない。あとは、紛争調停官という仕事柄、どうしても扱う言葉は増えるようになる。顕著な例は、ユーゴスラビア諸国で話されるセルビア・クロアチア語。各共和国で方言的なものや言い回しの違いはあるが、コソボ共和国の案件を扱った際には大変役立った(しかし、多くは忘れてしまった気がするが)。かつては、そう、アンゴラやモザンビークの案件にも携わったので、ポルトガル語もなんとなくわかる気がする。最近では、まだ発音や、きちんとした理解は難しいが、アラビア語などもそうだろうか。ただし、決して、“使える”“話せる”というレベルの習得度ではないことははっきりといっておきたい。

ところで、私が言語習得時に特に大事だと思うのは、紛争調停や交渉時もそうなのだが、いかにその言語を話す相手に関心を持つかということだろう。この人の考えをもっとよく理解したい、関心がある、という姿勢を示すには、相手が話す言語をマスターするに越したことはないだろう。その際に大事なのは、言語は話す人の文化を反映するということ。そのような背景でこのような言い回しが使われるのかということにも思いを馳せながら勉強してみると、なかなか関心が失われない。

ただ、私の仕事では、人間の生命・生き死にを直接に扱うため、やはり真剣な交渉ではそれらの言語は用いられない(まあ、語学力がそこまで及ばないことが最大の理由だが)。やはりそのような時には、英語がフランス語が“共通の”working languagesになってしまう。ただ、片言の言葉でも、交渉や調停、商談に臨む際には、アイスブレイカーの役割は十分に果たしてくれる。心と心の間のラポートとでも言おうか。私が相手の母国語で頑張って挨拶をしたりすると、どんな真剣な内容が後の交渉で待っていようとも、まずクスッと笑うか、にこっとしてくれる。それで一気に場の雰囲気が解れるのだ。

ただし、気を付けないといけないのは、知っている単語を並べ過ぎないことだろう。皆さんも外国で、外国人から突然日本語で「イチ、ニイ、サン、フジヤマ、スシ」といった具合に声をかけられた際に、ムッとするか反応に困ったことはないだろうか。私は結構、頻繁にある。ゆえに、同じことを相手にしないように心がける。

あとは、相手や相手の文化への関心度を示すために「XXってどう言えばいいの?」と尋ねてみるのは効果的だ。本当に親身になって教えてくれるし、間違えた使い方をしたらクスッと笑ってくれ、それがアイスブレイカーとしての役割を果たし、一気に相手との距離を縮めてくれることが多い。

私がよく行うのは、絵がとても下手なことを活かして、メモ帳に適当な絵をかき、相手に見せることだ。それで「それ何?」という質問形の現地語が手に入る。その後は、「それなに?」をひたすら繰り返し、単語を習得していく。これ、結構、効果的に、日常的な語彙なら学ぶことができる。あとは、分からない場合でも、ホテルなどでひたすらバックグラウンド・ミュージック的に現地のテレビ番組をかけておく。最近はやりのスピードラーニング的に、ひたすら聞き流すのだ。はじめは本当に全くといっていいほど理解できないのだが、そのうち、面白いことに言葉が拾えるようになり、「もしかしてこんな内容の話ではないか」と推測もできるようになる(おそらく50%ぐらいの理解率まで上がってくる)。そうなったら、しめたもの。現地語でしか伝えられていないニュースや文化の内容を、次の日に「こんなことがはやっているんだね」とか「こんなことが起きているんだね」といった“真剣な雑談”のネタが手に入る。

大事なことは、目の前の相手や相手の文化に関心を示すこと。そのためには、まず言語に関心を示すこと。プラス、“話すことができる”コンテンツを日本語でいいからたくさん用意しておくこと。そうなると、相手の言語がある程度掴めて来たら、一気にお話しできる内容は増えてくる。

それは、英語やフランス語といったメジャーとされる言語だけでなく、今回のネタになったその他の言語etc.でも同じことだ。まずはマネだっていい。まずは関心を示すことから始めよう。

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島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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