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Jihadの向こう側:世界の混乱を理解するもう一つの事実

“Jihadの向こう側“で本当に起こっていること

 

紛争調停官

島田久仁彦

 

9/11の同時多発テロ、アルカイダによる世界中でのテロ行為、そして今やISISによる中東からの恐怖の連鎖、欧州各国を襲ったテロの波。。。それらがメディアや西側の各国政府によって取り上げられる際、必ず出てくるのが、このジハード(Jihad)という言葉だ。ところでこのJihadという言葉の本当に意味はご存じだろうか。メディアではよく「聖戦」というように説明され、異教徒たちを神の名の下に成敗する、というように使われている。もともとはキリスト教の十字軍遠征の際の説明に用いられたのだが、イスラム教でのJihadの意味は、実は全く違う。ご存知の通り、イスラム教徒は一日5回お祈りをするのだが、その1回目は「日の出前に行う」ことが決められている。日の出前となると、大体朝4時半から5時ぐらいだろうか。仕事をしていたり、勉強をしていて前夜遅くなったり、疲れたりしていたりする際、「今朝のお祈りはしなくても許されるだろう」という心の迷いや怠け心が生じることがあるが、そういった怠け心を戒める教えがジハードなのだ。

 

ここまででもすでに「いかに私たちに伝えられている情報が歪められた、一方からの見方に頼っているか」感じられるだろう。それをさらに確信に変えてくれるのが、私が最近読んだSouad Mekhennet著“I was Told to Come Alone: My Journey Behind the Lines of Jihad”( https://www.amazon.co.jp/gp/product/0349008388/ref=oh_aui_detailpage_o07_s00?ie=UTF8&psc=1)だ。

 

彼女は私と同じWorld Economic ForumのYoung Global Leaderに選ばれているジャーナリストで、お父様がモロッコ出身のスンニ派、お母様がトルコ出身のシーア派で、どちらも70年代に移民としてドイツに渡っている。彼女はドイツ生まれで、ドイツで教育を受けているが、民族的・宗教的バックグラウンドゆえに様々な苦労もしている。学生時代からジャーナリズムの道を志し、ドイツ国内のメディアのみならず、collaborative writeとしてThe New York TimesやWashington Postにも、欧州における若者の過激派(多くはイスラム)、アラブの春、そしてISISの内情などについて、西側や日本での情報という“バイアス”から見ると、ユニークな視点で事実を伝えている。私自身、彼女にまだ直に会って話したこともなく、また私はジャーナリストではないが、彼女が伝えている事実は、紛争調停官として中東・北アフリカでの紛争に関わる身として得ている内容と一致している。そう、私達が日常に耳にしたり目にしたりする情報とは全く違った“事実”、実際にシリアやイラク、マグレブ諸国で起きていることや、ISISやイスラム過激派と呼ばれるグループに参加する若者たちの内情を、数多くのインタビューと分析によって、描き出している。また、イスラムの中でも非常に融和が難しいシーア派とスンニ派の確執についても、自身のバックグラウンドに基づき、詳細に描き出している。彼女がJihad(ここでは一般に言われる聖戦)を行う若者たちや、パリやブリュッセル、ミュンヘンなどで“テロ”を起こした実行犯の関係者などへのインタビューや、アメリカやイギリス、ドイツの情報機関からリストアップされるなど、よく言えば勇敢な、一般には無謀な、方法を取りつつ、伝えられないもう一つの事実を描き出している。

 

詳しい内容については、ぜひ本書をお読みいただきたいが、「一体、欧州などで起こるテロリズムの裏にはどういった事実があるのか」「ISISって実際にはどうなのか」といった疑問に、日本では得られない、そして英語メディアでは得られない形で、答えてくれるはずだ。国際政治を学ぶ人たちや、ジャーナリズムに携わるみなさん、その他、さまざまなバックグラウンドの皆さんにぜひ読んでいただきたい一冊だ。

 

私もこの本を私の調停の相手に紹介してみたところ、非常に感銘を受けると同時に、「どうしてこの情報が世界に伝わらないのだろう」(注:実際にはワシントンポストやニューヨークタイムズに掲載されるSouadの記事を通じて読者には届いているのだが)との感想が返ってきた。

 

伝えられていること=事実ではなく、それぞれの情報には伝えるものの意図が入っていることを理解し、“もう一つの事実”を探り、総合して考えることこそ、真の事実にたどり着く道なのではないかと考える。私も情報を駆使して、様々な調停案件に携わるので、再度、自分にも言い聞かせたいと思っている。

by

島田 久仁彦 (しまだ くにひこ)

1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター。株式会社KS International Strategies CEO。経済産業省参事。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。

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