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『戦略の地政学:ランドパワーvs.シーパワー』(書評)

『戦略の地政学:ランドパワー vs. シーパワー』(秋元 千明 著)

 

 

国際情勢の分析や安全保障問題についてのアドバイスをよく依頼される際、地政学的なリスク分析が不可欠であるため、最近では、国際交渉人や紛争調停官という肩書以外に、地政学リスクアドバイザーという肩書もつけるように助言を受けた。投資銀行の幹部や政府の幹部、そして多国籍企業の経営陣などに「ニュースでは語られない“本当の”情勢」についての助言を依頼される。ただ、そう言った際にも、私の情報以外に何かしら理解を助けるような材料はないかと探していた際、この本に出合った。

 

元NHK記者で国際情勢および安全保障について30年にわたって取材を続け、その後、英国王立防衛安全保障研究所のアソシエイトフェロー、そして2012年からはそのアジア本部所長として活躍されている秋元氏の著書だ。

 

まずは「世界地図」から見える国際情勢について語られている。私も国連時代のオフィスに飾った上下反対の世界地図についても触れられているが、「世界地図の中心をどこにして世界を見るか」という視点から情勢を眺めると、各国の意識の深層が垣間見られる。例えば、上下逆の地図で見ると、オーストラリアが太平洋諸国であることがよく分かるし、よくNATO(北大西洋条約機構)の作戦本部などで見られる北極を中心に描かれた世界地図を見ると、米ロは隣国であることも分かる。そして、本著を手にして、東アジアの地図をひっくり返してみると、中国がどうして尖閣諸島に拘るのかが明確に分かる。中国からすると、太平洋へ進出するにあたり、美しい日本列島は蓋、もしくは大きな壁として、中国の前に聳え立っているのだ。太平洋へ進出し、海洋勢力としての地位を築くためには、遠回りしてオホーツク海へ回っていくか(この場合は、ロシアとアメリカを刺激する)、南シナ海経由で行くか(この場合は、中台問題に直結する)、または日本海経由で津軽海峡を抜けていくルート(これは日本を刺激する)、そして残されたルートが沖縄本島と宮古島の間の比較的広い海域を抜けていくルートだ。最後のルートで中国にとっての太平洋への玄関口にあり、比較的中国に近い位置にあるのが尖閣諸島なのだ。もし、ここを領有して、軍事施設を築くことができれば、日米の動きを常時監視できるのだ。東アジア情勢について、語る機会が多くなってきたが、理解を深めるきっかけを与えてくれた。

 

その他、北極海をめぐる新たな地政学リスクや、アフガニスタンの持つ地政学的な宿命、中東地域が抜け出すことのできない欧米の呪縛などについても、独自の視点で描かれている。昨今の気候変動の影響を受け、北極海は永久に凍結する海から、原子力潜水艦以外の船も航行し、資源開発が行える海へと変遷を遂げてきていることで、新たに生まれた地政学リスクについての分析も大変面白く、もうすでに起き始めている周辺国の争いと、北極海を輸送に利用する海運国家間での争いが、今後、大変な問題に発展していくだろうということを理解させてくれる。

 

ランドパワーとしての大国とシーパワーとしての大国の歴史とその特徴の対比は、ボリュームが非常に割かれており、幾分、研究論文のように思われる内容もあるが、近代史を理解し、また、現在の国際情勢(トランプ大統領という不確定要素も含む)、そして「今後、どのようなことが起き得て、どうなるのか」という未来予測にも役立つ内容であったと考える。

 

そして、本著は、沖縄問題についても面白い考察を加えている。メディアが語る“沖縄”とは別に、地政学から見た“沖縄”の位置づけだ。在沖縄米軍の今後や日本の安全保障の行方を見るにあたり、この“沖縄”の見方は大変参考になるだろうし、また本著最後に述べられる日本にとっての指針にも大きな影響を与えるだろうと感じさせられた。

 

本著の内容の詳細については、ぜひ本著をお読みいただきたいが、これまでの国際情勢、現在、私達が置かれている国際情勢の理解、そして今後表出してくるだろう地政学リスクについて理解するにはとてもよい文献であると考える。

 

 

 

by
島田 久仁彦 (しまだ くにひこ) 1975年生まれ。大阪府出身。国際ネゴシエーター・紛争調停官・地政学リスクアドバイザー。株式会社KS International Strategies CEO。同志社大学、アマースト大学を経て、2002年ジョンズ・ホプキンズ大学大学院国際学修士。国際情勢、環境・エネルギー問題の専門家。1998年より国連紛争調停官としてコソボ、東ティモール、イラクなどの紛争調停に従事。2005年から環境省国際調整官(2010年11月から2016年3月までは環境省参与)として、気候変動交渉で日本政府代表団リード交渉官と交渉議題の議長を歴任。2012年世界経済フォーラムYoung Global Leaders 2012に選出される。現在、CNN、BBC、France2など海外メディアに出演し、国際情勢、安全保障問題、環境・エネルギー問題などのコメンテーターを務めている。活動は安全保障・外交問題、エネルギー、環境問題にとどまらず多岐にわたる。主な著書に『交渉プロフェッショナル』(NHK出版)、『最強交渉人のNOをかならずYESに変える技術』(かんき出版)などがある。また、交渉・コミュニケーション術についての秘訣に加え、最新の国際情勢をぎりぎりまで解説するメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の究極の交渉・コミュニケーション術』(http://www.mag2.com/m/0001682898.html)も発行中。
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